第3-1話 初級術師、不思議なオーブを買う
「はぁ……商店街の会合、緊張したぁ……」
「ふふっ! わたしたちのお店、絶好調だもんね!」
「商店街の役員に選出されたのも無理ないよ!」
僕たちの店が所属する”わくわく商店街”の会合で、「企画部長」なる役職に推薦された僕は、いまだ緊張しながらポゥと一緒に街を歩いていた。
僕の店が開店してから2週間……冒険者ギルド本部の通達によって、転売目的の冒険者たちが殺到することは無くなったものの、全体的なポーションの品薄感が続いていることもあり、僕の店は繁盛していた。
勇者パーティのヒューバートさんに卸す分の売り上げが安定しているのもありがたい。
そんなわけで、僕の店にお客が集まるので、いまいちパッとしなかった”わくわく商店街”の人通りも増え……気をよくした商店街のおっちゃんたちに、むりやり「企画部長」に祭り上げられたというわけなのだ……とほほ。
「えへへ、お祭りの企画とかもするんでしょ?」
「いろんな人と交流するから、グラスもリア充になれるよ!」
「ほら、防具屋のセレンさん! あの人キレイだよね~お近づきになれるかもよ?」
ポゥはいたずらっぽく微笑んでくれるが……。
「た、確かにセレンさんはみんなが憧れる大人の女性だけど……」
「ぼ、僕がリア充なのは、ポゥに対してだけでいいよっ!」
「へうっ!?」
思わず口走ってしまった恥ずかしい言葉に、ぽん! という音を立てそうなほど真っ赤になるポゥ。
「も、もう恥ずかしいよグラス……いきなりそんなこと言うなんて、反則だよぉ……」
ぎゅっ……
恥ずかしくなったのか、僕の背中に抱きついてくるポゥ。
じゃららららっ
その途端、僕の腰に下げたアイテム袋の中にたくさんのポーションが生成される。
ふっ……外での不意打ちイチャイチャイベントに備え、ポーション回収袋を常に持ち歩いているのだ!
……この準備の良さを女の子に対して発揮しろ?
ほ、ほっといてよ……ドーテー18歳男子はこんなもんだよ……。
思わず落ち着きなく周囲を見回す僕……ふと商店街の広場が目に入る……”骨董品市”か……そういえば商店街の企画として、市を開催するって言ってたな。
何を隠そう、僕は骨董品集めが趣味である!
そこ! その趣味じゃモテないよねとか言わない!
「……お、グラス……骨董品を見ていきたいんだね」
「えへへ……わたし先に帰ってるから、ゆっくり見ててよ!」
「わたし、食材買って夕食の準備もしておくね~」
「あっ……まって……量は控えめにお願い……」
僕に気を利かせたのか、ポゥは先に帰ってしまった。
う~ん、とってもとってもいい子である(食べる量以外)
せっかくなんで、僕は骨董市を堪能していくことにした。
*** ***
「ふむふむ……これは良い壺だなぁ……ロンダルキアの500年ものかな?」
僕はうきうきと骨董市を巡る。
お店の内装に色どりが足らないと思ってたんだよね……この壺とか置いたら華やかになるだろうか……?
「おっ! 兄さんいい目利きしてるねぇ!」
「それ、本物のロンダルキア製のアンティークだよ」
ふふ、骨董商のおじさんに褒められてしまった……父さん直伝の観察眼には自信があるんだよね。
おじさん、これいくら……聞こうとした僕の目に、リンゴくらいの大きさの丸いオーブが目に入る。
全体的には青みがかっているが、手に取ってよく見ると、中心部が七色に光っている。
こういうの、どこかで見てたような……。
思わず首を傾げた僕の頭の中に、どこからか声が響く……。
[にしし……オニイサン……アタシの玉の肌に興奮しちゃって……もしかしてロリコン?]
「なっ……!?」
い、いきなり悪戯っぽい声が聞こえたぞ……そう、最近王国出版社のマンガ雑誌でブームの”メスガキ”のような……。
骨董商のおじさんが不思議そうな顔をしているのを見ると、声が聞こえたのは僕だけなのか……。
「お、おじさん! この壺と……このオーブでいくらになる?」
「その壺は1万センドだけど……そのオーブは変な冒険者に無理やり押し付けられたものだから……壺を買ってくれるならタダであげるよ!」
”七色に光るオーブ”……どうしても気になった僕は、アンティークの壺と共にそのオーブを購入するのだった。
*** ***
「う~ん、やっぱりポゥの”元”になっていた七色に光るポーションに似てるなあ……」
ここは僕の家のリビング。
買ってきた壺をうきうきと店に飾ると、僕はテーブルの上に”七色に光るオーブ”を置き、人差し指でもてあそんでいた。
ポゥは入れ替わりで食材を買いに出たらしく……「ポゥちゃんいらっしゃい!」と八百屋のオバちゃんの声が商店街に響いていた。
食材店にとっては大口優良顧客だもんな……。
一応、アイテムリストが載っている辞書で調べてみたけど……該当のアイテムは存在しなかった。
”ポゥ”のポーションに似た感じ……頭の中に聞こえてきた声……。
僕の中に、なにかの予感があったのかもしれない……僕はオーブにゆっくりと唇を近づけると……。
ちゅっ
そっと口づけた……ひんやりとした感覚。
「…………なーんて、そんなことが何度もあるわけ……」
恥ずかしくなった僕が頭をかいてごまかそうとした瞬間……。
まばゆい青白い光がオーブからあふれ出し……!
「くっ……まぶしい!」
光が収まったとき、テーブルの上に立っていたのは……小さな女の子だった。
「にしし……いきなりキスしてくるなんて……兄さん、アレかぁ?」
「ア・タ・シの未成熟な身体に興奮する……真性ロリコン?」
「ほらほら……アタシのパンツ、見るかい?」
外見年齢は12歳くらいだろうか。
毛先が少しカールした、くせ気味の肩まである鮮やかな青髪。
いたずらっぽい輝きを放つ釣り目気味の蒼い瞳は吸い込まれそうだ。
幼年学校の制服に似た、セーラー服に青いスカート。
すらりと伸びたポゥより少し浅黒いすべすべの生足に、黒のローファーを履いている。
彼女はメスガキっぽいセリフと共に僕に下着を見せようとしてくるが……。
「……えーと、キミ……机の上に立ってるから、丸見えなんだけど」
風情がないコト甚だしいですね。
僕が思わず冷静に突っ込むと、青髪の女の子はみるみる顔を真っ赤にして……。
「こらっ! アタシがまだOKって言ってないのに、勝手に見る奴があるかぁ!」
げしっ!
「へぶっ!」
理不尽なセリフと共に、彼女のローファーに顔を踏まれたのだった。
からかい上手のエーテルちゃんです。
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(作者のMPが回復します!)