第2-3話 【パーティ転落サイド】ルード達、回復術師を加入させるも痛恨の計算ミス
「よし、これで俺のパーティは完ぺきな布陣だぜ……行くぜお前ら!」
「はい、おまかせを」
「…………」
くく、ようやく上級回復術師のフレッドが加入したぜ……。
女魔法使いのレイラは相変わらず無口だが、まあどうでもいい!
今日はA-021迷宮……前回の赤字を今日1日で取り戻してやる!
新メンバーを加えたルード達のパーティは、意気揚々と迷宮に向かうのだった。
*** ***
「いてててて……大ダメージ食らったっす!」
「ふむ……おまかせを。 Aヒール!」
「うおお、全快っす!」
大ダメージを食らったジョンを、フレッドの上級回復魔法、Aヒールが癒す。
よしよし、順調だな。 Aランク迷宮なのでそこそこ敵は強いが、フレッドがいるから安心だぜ!
パーティリーダーであるルードはご満悦だった。
ひゅん!
「ちっ……矢のトラップか!」
「かすり傷だが……頼めるか、フレッド」
その時、珍しく罠の解除に失敗したダレルが、罠から放たれた矢により軽傷を負う。
20程度のダメージなので、Dヒールで十分だ。
「了解した……Dヒール……んっ?」
なんだ?
何が起きた?
「……いや、Dヒールが発動しない……」
「なんだと? 初級回復魔法だぞ……フレッド、まさかお前Dヒールが使えないとか言うんじゃねぇだろうな?」
「いやいや、そんなわけないだろう!」
「弱い魔法が、なにかの力に阻まれて発動しなかった……そんな感じだ」
「…………」
女魔法使いのレイラがこちらをじっと見ている……なんだ?
何か気になることがあるなら言えばいいものを。
うっとおしい奴だ。
「……仕方ない、ダレル。 ポーションを使え」
「ありがたいが……いいのか? これが最後の1個だぞ?」
「かまわねーよ! こちらにはAヒールがあるんだ! 大は小を兼ねるだ」
ルードはまったく気にしていないようだ。
このままボスに挑んで大丈夫だろうか?
ダレルは言い知れない不安を感じていた。
*** ***
2時間後……彼らは迷宮最奥で、ボスモンスターと対峙していた。
ここまでの道中で積み重なったダメージは、フレッドのBヒール、Aヒールで強引に治療した。
回復魔法を連打したフレッドに疲れが見えるのが気になるが……。
「……おい、ルード。 やはり”ポーション”をそろえて再挑戦すべきじゃないのか?」
「グラスの奴、ポーション専門店を開店したそうだぞ」
「相場より安く買えると、勇者のパーティにも評判らしいが……」
シーフとして嫌な予感が消えないダレルは、パーティリーダーであるルードに進言する。
ルードは、傲慢なヤツだがバカではない。
ダレルは進言が受け入れられることを疑ってなかったのだが……。
「……てめえダレル! なにかにつけて慎重策を言いやがって!」
「しかも今更グラスの野郎の店に行って、頭下げてポーション買って来いと!?」
「あのな! お前は冒険の事だけ考えていりゃあいいかもしれないけどよ!」
「パーティ全体の金策とか、パーティの評判とか……俺には守らなきゃならねーものが沢山あるんだよ!!」
普段の余裕をかなぐり捨てて激昂するルード。
しまった……失言だった……。
彼らのパーティが所属するギルド支部の支部長はルードの幼馴染であるブライアン。
そのコネを利用し、優先的に割のいいクエストを回してもらっていた。
クエストを成功させているうちは実績が嫉妬を覆い隠していたが、最近の彼らはクエストに失敗することが増え……アイツら贔屓してもらっているくせに……ルードのパーティに対する風当たりは強くなっていた。
「いいな、休憩は終わりだ……いくぞ!」
迷宮のボスモンスターに突撃するルードを止めるすべは、もうダレルに残されていなかった。
*** ***
「くっ……しまった!?」
ドゴオッ!!
「ぐはっ……がぁ!? やべーっす……」
迷宮ボスである”オーガ・ロード”は強かった。
ルード達は隙を見ながら確実にダメージを積み重ねていったのだが、わずかな綻びから前衛であるジョンが致命傷を負ってしまった。
だが、まだAヒールなら癒して戦線に復帰できる!
「おい、フレッド! 早く癒せ!」
慌てて回復術師フレッドに指示を飛ばすルードだが……。
「すまん……MP切れだ」
「はぁ!? なんだとてめぇ!? これくらいの使用回数でMP切れだと!?」
「事前に聞いていたステータスシートと違うじゃねーか!」
「まさかお前、十分に回復してこなかったのか!?」
MP切れだと訴えるフレッドに、ルードから怒号が飛ぶ。
「そんなわけないだろう! おかしいんだ……通常より回復魔法の消費MPが多くなってるのか?」
フレッドは焦りながら首をかしげているが……まずい、戦闘中だぞ!
注意する間もなく、”オーガ・ロード”の剛腕がジョンを捉える。
バキイッ!
「あ……ごはあっ……お、おれ……」
どさっ……
連携の乱れた俺たちのスキを突いた”オーガ・ロード”の一撃は、ジョンに対するトドメの一撃になってしまったようだ。
くっ……あれではもう助からない……血の海に沈み、ぴくぴくと痙攣するジョンを見て絶望するダレル。
「くっ……ジョンの奴あっけなくやられやがって……だがこのままじゃ俺たちも……」
「ふふ……大丈夫よぉ、ルード」
「……な、レイラ!?」
陰気魔法使いがしゃべった!?
戦闘中にもかかわらず驚くルードとダレル。
次の瞬間……!
「”グラビティ・バースト”」
レイラから放たれたAランク重力魔法が、”オーガ・ロード”をバラバラに引き裂き、重力の底に沈めた。
*** ***
「……くそっ……」
あの後、迷宮のお宝を回収し、十分な稼ぎにはなったのだが……結局ジョンは助からなかった。
奴の遺体を回収袋に入れ、引きずる仕事は陰鬱だ……。
「くふふ、ルード……大丈夫よぉ……魔法使いの私がいるじゃなぃ……」
「……ああ、レイラ。 そうだな……戦士は補充すればいい。 お前ほどの魔法使いがいれば……」
戦いの後、レイラはやけに饒舌になり、ルードにしなだれかかっている。
ルードもにやけながらレイラに魅入られているように見える……。
……この女、何者だ?
蠱惑的に微笑む女魔法使いに、ダレルは底知れぬ不安を感じていた。
次話では新たなアイテム娘が登場します!
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