第13-3話 ラストバトル(前編)
ついにたどり着いた迷宮の最奥。
魔族レイラは、蓄積した闇の回復エネルギーを使い、大魔王を復活させようとする。
それを阻止するために突撃する勇者アロイスさんをはじめとした冒険者たち。
ビュオオオオオオッッ!
彼らを支援し、レイラの動きをけん制するために放たれた僕たちの攻撃魔法。
王国トップクラスの使い手たち(プラス僕のXXヒール)が放つ攻撃魔法は的確にレイラを捉え、その動きを止めるはずだったが……。
「ふふっ……いまさらこの程度の魔法なんて、甘いわネェ!!」
ブワアアアアアッ!
やけに耳障りなレイラの叫び声がこちらに届くと同時に、黒と紫がまだらに混ざった禍々しい魔力が奴の身体から放出される。
その魔力の渦はおぼろげに巨大な腕の形をとると……!
……ぱしゅん
その腕のひと振りで、あっさりと僕のXXヒールとシャロンさんたちの攻撃魔法を吹き散らした。
「なっ!?」
前回の対戦時、レイラが魔法効果を反転させてきた事を警戒し、まず僕の”XXヒール”で奴の術を無効化、そこにみんなの攻撃魔法をたたき込んでダメージを与え、動きを止める予定だったんだけど……まさか、”XXヒール”まで打ち消された!?
「うそっ!? 闇の回復エネルギーや、異常な魔法状態を正常化するグラスの”XXヒールが”……!」
僕の隣でポゥが驚きの声を上げる。
「魔法の原理的に、レイラの闇の回復エネルギーでグラスくんのXXヒールを打ち消せるはずは……」
「まさか! この魔力は……!」
ヴァンさんは何かに気づいたようだが……。
「くっ……間に合いませんでしたか……なんとか皆さんを逃がさないとっ」
「エナ、今なんて? もうすぐアロイスさんたちがレイラに攻撃を仕掛けるし……そのタイミングでもう一度みんなで魔法を当てれば……」
「……聞こえませんでしたかグラス! なんとか皆さんを呼び戻しましょう、一歩遅かったのです! 早く撤退しないと!!」
ここまで来て撤退!?
まだ戦いが始まったばかりなのに撤退を口にするエナ。
いつもと違い消極的な事を口にする彼女に反論しようとして、僕たちは貴重な時間を消費してしまう。
「逃がすと……思っタァ?」
この距離でも僕たちのやり取りが聞こえていたのか、レイラがにやりと笑みを浮かべる様子がはっきりと視えた。
「この間合いなら! もらったっ!!」
意識を僕たち魔法使いに向けていると判断したアロイスさんと冒険者たちが上段、中段、下段から一斉攻撃を仕掛ける。
凄い!
エナジーオーブの効果により鋭さを数段増した複数の剣筋はレイラを捉え、彼女を一刀両断するように見えたのだが……。
ガキインンッ!
「馬鹿なっ!?」
やけに甲高い音が地下空間に響く。
必殺の間合い、必殺の威力で放たれたはずの剣は、レイラに届く前に黒紫の魔力障壁にあっさりと弾かれる。
「……ハムシども、うっさいワネェ……!!」
ブオンンンッ!
煩わしそうなレイラの声とともに、先ほど僕たちの魔法を弾いた異形の腕がより明確な形を取り、アロイスさんたちを吹き飛ばす。
「がっ……!」
たった一撃で意識を刈り取られ、吹き飛ばされるアロイスさんと冒険者たち。
何か不思議な魔法でも掛かっているのか、一瞬でほとんどのHPを持っていかれたのが分かる。
「いけない! 回復しなきゃ! ポゥ!」
「うんっ! いますぐグランポーションを!」
その様子を見た僕は、アロイスさんたちの所に向けて走り出す。
すかさずポゥも反応して、複数個のグランポーションを投げ渡してくれる。
「あっ!? いけません、グラス! 貴方が不用意に近づいては!」
とっさにエナの警告が飛ぶが……このままじゃアロイスさんたちが危ない!
そう熱くなってしまった僕は、彼女の警告を振り切りアロイスさんたちのもとに駆け寄る。
「グランポーションを! あと”Dヒール”!!」
パアアアアアッ!!
「……う……グラス君か? !! まずい! 今すぐ離れるんだ!!」
グランポーションの暖かな光が周囲に満ち、アロイスさんと冒険者たちのHPを全快させる。
だがその時、危険を察知したアロイスさんが鋭く叫ぶ。
「え……あっ、やば……XXヒ……」
魔族レイラの間合いに入ってしまった……僕は失敗を悟り、とっさにXXヒールを使おうとしたのだが……。
「……うふぅ……カカッタ」
にやりとレイラが邪悪な笑みを浮かべる……焦って先行したコイツに駆け寄る残りのアイテム精霊たち……すべてが自分の”テリトリー”に入ったことを確認したレイラは、全ての力を解放する!
ヴオオオオオオオオオンンンッ!!
地下のすえた空気を震わせる耳障りな音とともに、紫と黒にまだらに光る魔力のドームが僕たちを飲み込もうとする……。
「危ない、グラスっ!!」
だきっ!
パアアアアアアッツ!
魔力ドームの壁が僕を包み込む瞬間、ポゥが背中に抱きつき回復エネルギーを全開にする。
バアアアアアアアアンンッ!
身体じゅうを引っ掻き回されるような衝撃に、僕は意識を失った。




