第2-2話 初級術師、大口契約ゲットする
ヒューバートさんから聞いた衝撃の事実。
ポーションの値段が上がっているって?
「そうだね……ポーション自体の品質によるけど、”ポーション”で40~70センド、”ハイポーション”で2500~4000センドが今の相場だね」
「まじっすか……いままでの相場の数倍じゃないですか……」
改めて驚く僕。
今更だけど、”ポーション”をはじめとする、回復アイテム類は、現在の人間には作れない「失われた技術」となっていて、迷宮の宝箱か、モンスターのドロップアイテムとして手に入れるしかない。
それが大きな問題になっていないのは、回復魔法の存在と……ドロップ率の高さにあった。
普通に一日戦えば数十個手に入るので、冒険者の需要に対して余るくらいだったのだ。
「そこで相談なんだが……このあと勇者やその他上級クラスの冒険者と合同で、おおきなクエストがいくつも予定されていてね……キミの店と専属契約を結ばせてくれないだろうか?」
「えええええ~っ!?」
本日何度目かの僕の叫びが、お店の中に響き渡ったのだった。
*** ***
「えへへ、良かったねグラス! 大繁盛だよ!」
ヒューバートさんが帰った後も、僕はふわふわと実感がなかった。
「うう~ん、まだ信じられない……あの”勇者パーティ”と専属契約なんて……」
契約内容は、こうだ。
1:今後、”グラスとポゥの快復ストア”は、仕入れたハイポーションの70%、ポーションの40%を勇者パーティを通して冒険者ギルド本部に納入する
2:納入価格は一律ポーション:20センド、ハイポーション:1500センドとする(これは、冒険者ギルド本部の意向で、回復アイテム価格の高騰を防ぎたいみたい)
3:転売目的で”グラスとポゥの快復ストア”から回復アイテムを購入した者は処罰される
4:冒険者ギルド本部から24時間態勢で警備が派遣される
正直、始めたばかりのお店としては夢のような待遇だ……なにしろ僕とポゥがいればアイテムづくりにお金はかからない(ポゥの食費は凄いけど……)ので、安定した価格で買ってもらえるのは最高です。
特に4については”これだけ話題になったら泥棒に入られるかも……”と心配してたので、渡りに船と言えるね。
「それにしても、”ポーション”のドロップ率が下がっているって……ポゥ、心当たりある?」
僕は、先ほどのヒューバートさんのセリフの中で気になっているところをポゥに聞いてみた。
ポーションの精霊ならわかるかもと思ったのだ。
「う~ん……わたしが”チカラ”の大きい人間型として実体化したから、この地域全体の”アイテムパワー”のバランスが少し偏っていると思うけど……こんな大きく影響することは考えられないよ!」
「仕事の合間を見て、調べてみるねっ!」
むむむ……ポゥでも分からないとなると、お手上げだなぁ。
「まあ、それはおいおい調べてもらうとして……今日は店じまいだね」
僕は改めて店内を見回す……あれだけたくさん準備したポーションの棚は、すっかり空になっていた。
「えへへ、初日で完売しちゃった! すっごいね!」
「まさか完売するなんて……信じられないよ」
「えっと、今日の売り上げは……ご、50万センドっ!?」
僕は売上伝票を集計して、驚愕の叫びをあげる。
これにはもちろん、ヒューバートさんからの先払い分も入ってるけど……王国最大のデパートの1日の売り上げに匹敵するぞ……。
「おおお、すごいっ! お金持ちだね!」
「ね、ね、せっかくだからお祝いしよ! 美味しいやつ! わたし、おなかすいちゃった!」
ポゥは、くぅっとお腹を鳴らすと、お祝いと称したごちそうを要求してくる。
「そうだね……ポゥにはいっぱい”ポーション”作ってもらわなきゃだし、今日はぱ~っと最高級ディナーをデリバリーしようか!」
「やったー! グラスだいすき!」
そのあと、うかつにも注文をポゥに任せてしまった僕は、馬車を仕立てて到着した”ディナー”をみて驚愕するのだった。
*** ***
「ふぅ……とんでもない夕食だった」
山のように積まれた肉や魚の焼き物、大量のフライにたくさんのサラダ……極めつけに色とりどりのケーキのほとんどがポゥの口の中に消えた後……現在ポゥはお風呂に入っているところだ。
それにしても楽しい食事だったなぁ……ここ5年以上、ほとんどの食事をひとりで取ってきたんだ……かわいい女の子とわいわい楽しくしゃべりながら食べる食事がこんなに美味しいなんて……。
ふふっ……思わず笑みがこぼれてしまう。
に、人間化したアイテムの精霊さんと結婚って出来るのかな……いや結婚というか……恋人たちがするという「あれやこれや」は出来るんだろうか?
ドーテー丸出しの妄想に沈む僕……許してほしい……男ばかりの冒険者パーティ……幼年学校でもぼっちだった僕には、強すぎるシゲキなんです。
いやでも、いままで耐えてきた苦労が今ここに花開こうとしてるんだ……僕は幸せになっていいんだ!
僕の妄想が最高潮に達しようとした時……!
リビングのドアがガラッと開き、お風呂上がりのポゥが現れた。
彼女は半そでTシャツにショートパンツ姿というラフな格好をしており、すらりと伸びた真っ白な生足が目に眩しい。
その肌は、お風呂で温まってほんのり桜色に染まっていた。
「お先にお風呂貰ったよ~、わたし! 元気満タン、ポーションパワー全開!」
「よ~し! 明日に備えてポーション作ろう! おー!」
僕がポゥに見とれていることに気づかず、彼女は元気よくガッツポーズすると、いまだぽ~っとしている僕の隣に座ってきた。
「んふ、グラス……だいすきっ……ちゅっ」
大胆な言葉とともに、ポゥと僕の唇が重なる。
い、いきなりとか……心の準備が……しかもキスの時間が……長い?
”ポーション”のエネルギーが満ち満ちているのか、ポゥの唇はより柔らかく……よりいいニオイがして……。
じゃららららっ!
「……きゅう」
沢山のハイポーションがこぼれ落ちる音を聞きながら、僕は目を回したのだった。
父さん母さん、ポゥのおかげで僕の理性は崩壊しそうです。
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