第12-4話 エナの直球お悩み相談室
「はぁ!? 私に”お悩み相談室”をしろと……?」
ここは僕の家のリビング。
僕の突然の申し出に、エナは困惑の表情を浮かべている。
「はいっ、エナさん! 新作スイーツのパネットーネとホットココアだよっ!」
すかさず、エナの前にお菓子と飲み物を置くポゥ。
「はうっ……この果物の酸味とマッチした控えめな甘さ……最高ですね………って、そうではなくっ!」
「グラス! 私に”お店”をしろとか、どういうことですか!
魔族レイラに対抗するための大事な準備期間……貴方たちには緊張感が欠けています!」
お菓子のコンビネーションにあっさりと陥落されかかるものの、ぎりぎりで踏みとどまったのか、ばんっと机をたたいて抗議するエナ。
「……とはいっても、夜の”アイテム生成”以外、エナが暇そうなんだもん」
「ぎくっ!」
「わたしたちはお仕事があるからいいけど……あ、そういえばエナさん、こないだずっとリビングでクロスワードパズルをやってなかった?」
「定年後のお父さんみたいだったよ?」
「ぎくぎくっ!」
僕とポゥのコンビネーション攻撃に身に覚えがあるのか、身体を震わせるエナ。
そう、僕たちは迷宮探索や穴掘りではあまり役に立てないので、彼ら向けのアイテムをせっせと作成しているんだけど、回復エネルギー(ごはんエネルギー)の関係で、四六時中アイテムを作れるわけじゃないので、ほとんどの時間では日常生活を送っている。
”仕事”がある僕たちはともかく、決まった仕事のないニートエナさんは日中とても暇そうなのだ。
「ま、まさか……誇り高きエナジーオーブの精霊である私がクソニートな生活を送っていたなんて……いや、私がクロスワードパズルを解くことで、エナジーオーブの生成に好影響が?」
「いや、まったくないから!」
ふるふると自分に言い聞かせているエナをバッサリ両断するポゥ。
容赦のない一撃が彼女を襲う!
「ということで、元気が有り余ってそうなエナに、ピッタリの物件を探してきたから、暇つぶしがてらでいいので”エナさんお悩み相談室”をやってみて!」
「がんばって、世の中にやってやれない事は無いよ、エナさん!」
「は、はい……貴方たち、その恋人連携的圧迫面接はやめて頂けません?」
笑顔で圧力をかける僕とポゥの勢いに、ニートに甘んじるのはイヤだと思ったのだろう、渋々という感じでエナはうなずくのだった。
*** ***
「ううう、なぜ私がこんなことを……」
「ぷぷぷ、エナっち、お似合いだぜぇ」
「エナさん、かわいい!」
「わたくしのお店とのコラボレーション、ふふふっ……イケてますわっ!」
ここは、リーゼのアロマショップの隣。
以前は浴場(意味深)の従業員寮として使われていたらしい細い2階建ての建物の2階に、”エナさん全力エナジー相談室”を設置した僕たち。
リーゼのアロマショップの主なお客さんは女性……悩み多き乙女たちのケアもカバーする完璧な布陣である。
……なのだが、リーゼの策略により部屋の照明はピンクでエナはフリフリのメイド服を着せられており、ぱっと見は怪しいお店にしか見えない。
美人顔のエナが着ると、なんというか……これもギャップ萌えだろうか?
「これで街の人々のメンタルケアをすることで、闇の回復エネルギーの蓄積を遅らせる……理屈は通っていますが、何か引っかかる…………ええいっ! 悩むなど私らしくないっ! さあ、お客を通しなさいっ!」
エルとヴァンのだいぶん適当な説明に言いくるめられた、流されやすい性格のエナがやけくそ気味に叫ぶ。
なにはともあれ、”エナさん全力エナジー相談室”は開店の日を迎えたのでした。
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「……最近、カレシが仕事を言い訳に、なかなか会ってくれなくて……どうすればいいでしょうか?」
「ウジウジしている暇があるなら、その男の家に突撃するのです! はい、この薬を使えば力が3倍になります!! 正面突破に勝るものなし!!!」
「……なるほど! 正攻法(?)ですね、ありがとうございます!」
倦怠期に悩む女性には力づくの解決策を……。
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「同時にふたりに告白されて困っています……男性としての魅力は同じくらいで……どちらにすればアタシは幸せになれるでしょうか?」
「パワーイズエナジー! 強い方をゲットするのです! ということで、この薬をふたりに飲ませてください。 バトルロイヤルで生き残った方が貴方を幸せにしてくれるでしょう!!」
「なるほど! 力こそ正義ですね!」
恋に悩む女性にも力づくの解決策を……。
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「ワシの会社がつぶれそうなんです……取引先が支払いを待ってくれなくて……」
「ここにグランエーテルがあります……これを売って資金を作り、競馬にブッパです!」
「なるほど! どうせ終わるならイチかバチかの勝負ですね!」
経営に悩む男性にも力づくの解決策?を……。
パワーイズ正義の力づく解決策……勢いですべてを解決に導く”エナさん全力エナジー相談室”は、意外な繁盛を見せていた。
「エナジーオーブの力を使って、色々ギリギリな薬を売るのはありなんか?」
「ま、まぁ、みんな元気になってるからいいんじゃないかな?」
やけに生き生きとしだしたエナに、少し引き気味のポゥとエル。
なんにしろ、究極のアイテム精霊であるエナは、クソニートになる危機から脱したのだった。




