第12-1話 エナジーオーブの精霊さん
僕の家の2階に転移してきた七色に光るオーブ。
アイテムの精霊実体化のプロ?として、キスした結果、やっぱり女の子が現れました。
年齢は僕と同じくらい、すらりとした長身に、きりっとした雰囲気。
さらさらしたオレンジのミドルヘアーは、毛先がぴんとはねており、それぞれ七色に染まっている。
スタイル抜群の身体をピッチリフィットした皮のジャケットで包み、白のショートパンツに足元はブーツだ。
抜群の美人さんだが、その太めの眉はきりりと吊り上がっており、ふんふんと鼻息が荒い。
「ようやく、私も実体化できましたね!」
「貴方が噂のアイテム精霊実体化職人グラス……それにこの力……さすがです!」
ええと、職人かどうかは分かんないけど、彼女が”エナジーオーブ”の精霊さんか……。
現れるなり、気になることを言っていたけど、まずは落ち着いて話を聞いてみよう。
「エナジーオーブの精霊か……エナって呼んでいい?
”魔王”とか”世界が滅ぶ”とか、気になることを言ってたけど……まずはゆっくり話を聞かせてくれるかな?
お茶とケーキもあるよ?」
「エナさん、グラスのケーキは絶品なんだよっ!!」
僕の言葉に合わせ、しゅたっ! と昨日大量に作った新作スイーツのティラミスを取り出すポゥ。
「なっ! 貴方たち! 世界に迫る危機が分かっていますか!?」
「そんな悠長な事をしている暇は……」
かぱっ……
ふわり、とふたを開けたティーポットから紅茶のいい香りがする。
それはココアと生クリームの甘い匂いと混ざり合い……。
「頂きますっ!!」
あっさりとエナジーオーブの精霊さんを陥落させたのだった。
*** ***
「くはぁ……こんなに美味しい魅惑の食べ物が人間界にあったとは……」
ここは1階のリビング。
ティラミス+紅茶の第一次攻撃隊、甘さ控えめチーズケーキの第二次攻撃隊の連続攻撃に、エナはすっかり骨抜きにされていた。
「にしし、グラス特製スイーツ攻撃にエナジーオーブさんもすっかり陥落ですか」
「それにしても……やべえ出来事が! って慌てて転移して来たけどその後のことを考えてないとか、リーゼ並みのあわてんぼうじゃね?」
「なななっ!? わたくしはエナさんほど考えなしではありませんわっ! 現に、ダンジョンの奥でアナタたちを待っていたではありませんか」
「……それなら、あのトラップの嵐は不要だったんじゃ?」
「うぐっ……そ、それは思わず退屈で……」
エルに弄られまくっているリーゼは置いといて、”魔王”か……僕はエナから聞いた言葉を反芻していた。
「うん、ポゥたちアイテムの精霊は、女神様の寵愛により生み出された存在なの……」
「だけど、光あるところには闇があるように、いつの間にか”正”のアイテムパワーに反する”負”の力が溜まっていって……」
女神バレスタインとポゥ達アイテム精霊の間には、そんな関係があったのか……。
なら、今回の騒動の発端は……僕がちらりとエナに目をやると、彼女もはっと正気に戻ったようだ。ポゥの言葉を引き継ぎ、説明を始める。
「……はっ!? それが、”魔王”と言う存在を生み出し……前回の”カオスヒールの夜”を発端とした災厄を巻き起こしたのです!」
「前回はグラス、貴方のようなアイテム精霊と仲良くなれるスキルを持った少年の力で、なんとか魔王を封印することが出来ましたが……」
「今回は私たちアイテム精霊を裏切った魔族レイラ……もとは私と対になる”マジックオーブ”の精霊でしたが……彼女の陰謀により、魔王はより強大になり復活すると考えられます!」
「ということで、女神バレスタインより早くなんとかして来いとケツを蹴り飛ばされた私は、こうしてグラス、貴方のもとに参上したというわけです」
魔族レイラの正体と、世界の秘密……エナが派遣された流れをやけに俗っぽい調子で説明してくれるエナ。
……なんか今回の騒動って、女神バレスタインの身内争いじゃないの?
と一瞬思ったけど、相手は女神様……人間レベルじゃどうにもならない話なので、気にしないでおく。
それに、それがきっかけで僕はポゥと会えたんだ……なんとかこの楽しい生活を守りたい。
僕は決意と共にポゥの頭を優しくなでる。
「えへへ……グラス」
ポゥは嬉しそうに微笑み返してくれる。
「はいそこのふたり、何ラブラブ空間を出現させてるんですか!
まず、グラスの力を借りて、究極のアイテムである”エナジーオーブ”を作りますよ!」
思わずポゥとふたりの世界に入ってしまった僕を、エナの叱咤が引き戻す。
究極のアイテムの生成……ま、まさか。
究極と言うからには、どんなドキドキプレイ?をさせられるんだろう……?
僕が思わず身構えた瞬間、エナの口からとんでもない言葉が繰り出された。
「さあ、グラス! 合体しましょう!!」
「「「「「ええええええええええっ!?」」」」」
あまりにストレートな要求に、僕たち5人の驚愕の声が響き渡ったのだった。




