第10-2話 初級術師、リーゼの働き先に悩む
「むむむ……どうしよう?」
リーゼが僕の店に加わって数週間……僕はリーゼの働き先について悩んでいた。
「ポゥたちがちゃんと働いているのに、わたくしがクソニートだなんて、許せませんわっ!」
という彼女。 意欲的なことは結構なのだが……。
回復エネルギーの豊富な場所となっている僕の店周辺……彼女は限界突破してよく”黄色い薬液をおもらし”してしまうらしく……(あっちのおもらしじゃありませんので安心してくださいという手遅れ気味のフォロー)
ヴァンさんのカフェレストラン”プレジール”で働くのは問題外だし……(保険局から営業停止食らいそうです!)
快復ストアの方も人手は足りている……。
……あ、そうだ!
一つ案を思いついた僕は、さっそく商店街の不動産屋さんの所へ向かうのだった。
*** ***
「……ふんふん。 お前さんの条件だと……ここはどうだい?」
「平屋建てでちょい狭いが、希望通り大きな浴場もあるし、お前さんの店からも近いぜ?」
「僕の店の裏手……3軒となりですか……近くていいですね」
「値段も手ごろだし……」
僕は物件を探すために、不動産屋のルドガーさんを訪ねていた。
僕が出した条件は、店舗にできるような広い部屋がある事と、大きなお風呂が付いている事……。
リーゼは僕の家の2階の空き部屋に住むため、余分な部屋は必要ない。
近くにこんなぴったりな物件があったとは……僕はもうここに決めるつもりで内装工事も含め、ルドガーさんと相談を進めていた。
「それにしても……バックヤードにすぐお風呂があるってのがいいですね……ここ、前は何の店だったんですか?」
「お、それを聞くかい?」
契約を進める途中、なんとなく気になり尋ねる僕。
なぜかルドガーさんはにやりと邪悪な笑みを浮かべる。
「そうか……真面目なお前さんは知らなくてもしかたないか……実はここ、去年の王国保安局のガザ入れで摘発されちまったんだが、グレーな特殊浴場が……」
「あ、すいません! 大丈夫です! 僕の心の中にしまっておきますので」
あっ……と察してしまった僕は、慌ててルドガーさんの言葉を遮る。
なにしろおもらし(※エリクサーの余剰薬液です)が多いリーゼのためには、薬液を溜めておける大きな浴槽が欲しかっただけだ。
女性と一緒で、過去の事を色々掘り返すのは良くないな、うん。
リーゼには風呂好きの独身女性が住んでいたと説明しておこう。
僕はこの建物の以前の使用目的を忘却の彼方に放り投げると、契約書にサインをしたのでした。
*** ***
「”リーゼの世界一キラキラアロマショップ”……ですの?」
僕の提案に、不思議そうな顔をするリーゼ。
うん、その形容詞を付けた覚えはないけどその通り。
僕はリーゼの働き先として、新たな店……アロマショップを開店しようとしていた。
リーゼはエリクサーを生成する段階と……たまに回復エネルギーがあふれた時、余分な薬液を”おもらし”することがある。
その薬液からはほんのりいい香りがし、植物の生長を促し……癒し効果もある。
そのまま捨てるのはもったいない……もとい、下水道に苔が生えまくってめっちゃ怒られたので、なんとか活用案を……ということで絞り出したのが”アロマショップ”なのだっ!
黄色い見た目だと、どうしても悪い子が漏らしちゃう”アレ”を想像するので染料で他の色に染めて、香料を色々追加……香りに癒されてヨシ、観葉植物にかけてヨシの高級アロマオイルとして販売しようという作戦である。
「うん、高貴なリーゼに似合っているかなと思って(棒)」
「”アロマ”……聞けば王国貴族の間でブームになっているとか……究極のアイテム精霊にふさわしい仕事と言えますわね!」
「素晴らしいですわグラス、流石4人もアイテム精霊を実体化させただけの事はありますね……褒めて差し上げますわっ!」
適当な誉め言葉に有頂天になるリーゼ。
ちょろカワイイ……扱いが簡単な女の子に思わずなごんでいると、リーゼはふと物件の間取りが気になったようだ。
「グラス、なんでここ、売り場のすぐそばにお風呂がありますの?」
「わたくし、朝夜とお風呂に入りますが、さすがに仕事中には入りませんわよ?」
「……もれそうになったら浴槽に受ければいいかなって」
「!! ……んんんんっっ! わたくしのおもらしは、お小水ではなくてエリクサーの薬液だと言っているでしょう!!」
あえて直接表現しなかったのに自分で言ってしまうリーゼなのでした。
父さん母さん、僕のビジネスがさらに加速しそうです。
大実業家グラス……意外に悪くないかも。




