第2-1話 初級術師、開店する
「ふぅ……こんなもんかな」
1週間後……僕の家の通りに面した場所……長らく使われていなかった店舗部分をきれいにし、ガラス製の陳列棚も買いそろえた。
本日、いよいよ僕らの店がオープンする。
うう……緊張するなぁ……僕はもともと人前に出るのが苦手なのである。
「グラス~、チラシ配ってきたよ~」
「ありがとう! ”ポゥ”」
対照的に、社交性が高く、元気いっぱいなポーションちゃんには、チラシ配りを担当してもらっている。
彼女の見た目はまったく人間と変わらないので、看板娘もしてもらおうかな。
その時に”ポーションちゃん”では頭おかしい人たちと思われるので、”ポゥ”という名前で呼ぶことにしたのです。
「よ~し、あと1時間で開店かぁ……売れるといいな」
「だいじょーぶだよ! グラスとポゥのお店だもん!」
ポゥは、けなげに励ましてくれるが……何しろ売り物は”ポーション”と”ハイポーション”だけ……この1週間、ポゥと「いちゃいちゃ」して作ったものだ。
うう……健康な18歳男子としては、毎日ベッドの中でもんもんしちゃうよ……。
もちろん僕とポゥは別々の部屋で生活している。
”ポーションの精霊と”いう割には、彼女はご飯もモリモリ食べるし、お風呂にも入るし、きっちり睡眠もとる。
身体の柔らかさも人間と全く一緒なので、かわいい女の子と同棲しているみたいである……このドキドキ感、分かってもらえるだろうか?
ポゥは、「ごはんエネルギーがポーションのパワーになるんだよ!」と良く分からない事を力説していたが、すごく大食いなのでこのお店が軌道に乗らないと貯金が尽きます……。
僕たちは、切実な思いを抱きつつ、開店時間を待った。
*** ***
がやがや……ざわざわ
あと1分で開店時間だが、お店の外が何やら騒がしい。
ちゃんと商店街に営業許可は取ったし、王国にも申請した。
なんの問題も無いはずだが……ポーション専門店というのはまずいのだろうか……思わず不安になる僕。
入り口の扉の隙間からそっと外をうかがうと……。
はい!?
数十人以上の人たちが並んでる……僕が所属していたギルドの上位パーティだけじゃなく、他のギルドのSランクパーティや……えっ! ウソだろっ!?
アレは高名な”勇者パーティ”の回復術師さん!?
”冒険者トゥデイ”などの雑誌でしか見たことがない、あこがれの人の姿がそこにはあった。
「どどどど、どうしよう、ポゥ……「勝手にポーション売るな!」とか、クレーム言われるのかなぁ?」
ビビってしまった僕は、思わずポゥにすがりつく。
「もー! 大丈夫だって! ハイポーションの数が揃っているお店は少ないらしいから、話題になったんじゃない?」
「せっかくグラスとポゥのお店のオープニングなんだから、笑顔で笑顔でねっ!」
ぽんっ、とポゥに背中をたたかれると、不思議と気持ちが落ち着いた。
そうか、やっぱりこの子は……両親を超高難度迷宮の奥に失ってから、ずっと僕のメンタルを助けてくれた、あの”虹色のポーション”なんだな……そう思うと、この子の期待に応えなきゃ男じゃない!
すっと覚悟が決まった気がする……。
「えへへ、グラス……いい顔してるよっ! さあ、始めよう!」
「よし、”グラスとポゥの快復ストア”、開店だっ!」
がらりとお店の引き戸を開けると、まばゆい春の青空が目に入った。
父さんと母さんが残してくれた僕とポゥのお店、頑張るぞっ!
*** ***
「ポーション10個にハイポーション1つね!」
「はいっ! 全部で1100センドになりますっ」
「こちら、お品物になります。 今後ともごひいきに!」
「いや~、最近ポーションが品薄でね、助かったよ!」
開店から30分、僕とポゥは行列を一生懸命捌いていた。
「ふう、忙しいねっ! グラス、大丈夫?」
「ありがとう、ポゥ。 まさかこんなに売れるとは……僕びっくりだよ」
接客の合間に、ポゥが僕を気遣ってくれる。
最初はぎこちなかったけど、慣れた……というか怒涛のようにお客さんが来たので慣らされたというか。
気が付けば、開店時の行列はほぼ捌け、ポーションの在庫も7割がた無くなっていた。
今日は昼前で終わりかもしれない……僕がそう考えていると。
「そろそろいいかな……こんにちは、ハイポーションを見せてくれるかな?」
「!! ヒュ、ヒューバートさんっ!?」
混雑が落ち着いたころを見計らって、お店に入ってきたのは”勇者パーティ”のSSランク回復術師であるヒューバートさん。
王国でも最高峰の使い手であり、彼のSSヒールは回復量2万とからしい……マジかよ鼻血出ますね……。
50歳手前のナイスミドルで、物腰も穏やかだ。
全ての回復術師のあこがれと言っても過言じゃない。
「こ、こちらの棚になりますっ……ゆっくりと見ていって下さい」
「ふふ、ありがとう」
僕は緊張でカチコチになりながら、ハイポーションの棚を案内する。
ヒューバートさんはハイポーションを1つ手に取ると、興味深そうに観察している。
「ふむ……回復薬の純度も……輝きも申し分ない……平均的な回復量である500より、多くの回復が見込めそうだ」
「……グラス君、これほどのハイポーションをどこで?」
な、名前を覚えてもらってる!?
あまりの感激に混乱するも、お店の名前に自分の名を入れていた事を思い出す……僕がわたわたしていると、ポゥが代わりに答えてくれた。
「はいっ! わたしこの店の店員兼仕入れ担当なんですけど、わたしは北方のノルドランド公国のヒール島出身なので、親戚に頼んで、迷宮から取って来て貰ってるんです!」
「おお、なるほど……この王国にノルドランド公国出身者は少ないし、ノルドランド人は気難しい人が多く、なかなかポーションを卸してくれないと聞くが、いい仕入れ先を持っているようだね」
「はいっ!」
……アイテムの精霊さんとチュッチュして作ってます! などとは言えないので、僕がポゥと相談して組み立てた対外的な仕入れ先がこれだ。
実際、ノルドランド公国のヒール島では、大量のハイポーションがドロップするが、王国からは遠いので、ほとんど王国には入ってこないんだよね。
「……それで、値段は1000センドでいいのかい? 先ほどまでやってきた連中、かなりの割合が転売目的だと思うぞ?」
「……へっ? ハイポーションの相場は1つ1000センドでは?」
ヒューバートさんの言葉に、ぽかんとしながら返事をする。
確かに冒険者を辞めてから、開店準備に忙しくて街の道具屋、薬屋には顔を出してなかったけど……。
「ん? 知らないのかい?」
「ここ最近、王国周辺でポーション全体のドロップ率が下がっていてね。 ポーションの値段は絶賛上昇中なんだよ」
「えええええ~っ!?」
ヒューバートさんから聞いた思わぬ情報に、僕は素っ頓狂な叫び声をあげたのでした。
グラス君の店舗経営が始まりました!
続きが気になった方は「ブックマークに追加」して、更新を追いかけて頂ければ嬉しいです。
評価も頂ければもっと嬉しいです!
皆様の応援が、最高のポーションになります!