表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/56

第8-3話 初級術師、勇者と協力して真犯人を追い詰める

 

「……なるほど、あとで鑑定は必要だが、この”命令書”は本物の可能性が高いね」


「それにグラス君の”XXヒール”か……」


 ここは勇者パーティの回復術師、ヒューバートさんのご自宅。

 僕は先日の”ポゥ誘拐事件”の調査報告書を持って、相談がてらヒューバートさんに会いに来ていた。


 ヒューバートさんの家は落ち着いたたたずまいで、美人な奥さんと、ふたりのお子さんに囲まれた理想的な家庭環境である。


 ……僕もこうなれたらいいな……ポゥとの新婚生活……へへへ……やはり僕の人生の師はヒューバートさん、いろいろ相談に来よう……。


 幸せな将来設計のため、僕はヒューバートさんを頼りまくることを心に決めたのでした。



「王国軍大臣バルバス氏のサインが入った命令書の件は、私からもギルドに働きかけてみる……バルバス氏は大きな権力を握っているから、慎重に動く必要があるね」


 おっと、ヒューバートさんの話が続いている……僕は慌てて妄想世界から意識を引き戻す。


「犯罪者として投獄されていたルードを手駒として連れ出し、”傀儡術”を使う”魔族”と思わしき者……か」


「人間に擬態しているかもしれないし、最近王国軍中央司令部に加入した人員の名簿……そちらは私から当たってみよう」


「ほんとですか! 助かります」


 ヒューバートさんが調べてくれるなら、何か分かるかもしれない。

 そちらはお任せするとして……。


「グラス君の能力覚醒か……少し調べさせてくれるかな……」


 パアアァァ


 ヒューバートさんは、僕に手をかざすと、目を閉じ、調査魔法(スキャン)を発動させる。


「ふむ…………これはっ!?」


 スキャンが進み、何か分かったのかヒューバートさんが目を見開く。


「MPが……3万を超えているだと!?」


「はっ……? さ、さんまん?」


 通常の魔法使い、回復術師の平均MPは50から100……世界最高峰の魔法使いのシャロンさんでも、2000くらいと言われている。


 僕のMPは通常の回復術師の数百人分という事だ……マジですか。


「驚いたな……君が使ったという”XXヒール”、幻と言われているのは、消費MPが3000もあり、物理的にほとんど使える人間がいないからなんだが……」


「もしかしたら……王国史上……いや世界でも最高のMPかもしれない……」


 う、う~ん……ポゥたちと触れあったから?

 それとも最初から?


 ”世界最高”と言われると、なにか不安になってしまう……。


「とりあえず、現在使えるのは”Dヒール”、”MPギブ”、”XXヒール”だけのようだね」


「MP以外の能力に問題は無いから、心配しなくてもいい……MPとXXヒールの件はギルドには伏せておくし、グラス君は気にせず今まで通りの生活を送ってほしい」


「ポゥ君誘拐事件の件は、何か分かれば連絡する」


 ああ、なんてありがたい言葉なんだ……感激した僕は、お礼を言いヒューバートさんのお家を辞するのだった。



「”魔族”か……シャロンが気になると言っていた中央司令部のエージェント女か?」


「大臣が絡んでいるとなれば、慎重に行かないとな……」



 ***  ***


「……王国軍中央司令部に突然加入し、バルバス大臣の私設秘書となった魔法使いの女……」


「元冒険者ルードの件も含めて……貴様には様々な疑惑が出ている……それに……」


「ふふん……”魔の力”がダダ洩れよ、レイラさん……? いよいよ隠す気はないようね?」


 ここは王宮内の王国軍中央司令部練兵場。


 勇者アロイス、魔法使いシャロンをはじめとした、勇者パーティの4人が女魔法使いレイラを追い詰める。


「……まもなく、王国軍大臣バルバスにも逮捕状が出るだろう……もう逃げられないぞ」

「無駄な抵抗はやめるように」


 ぱああぁぁ……


 回復術師のヒューバートが、この日のために古文書より復活させた、強力な対魔族捕縛術を発動させる。

 魔法使いシャロンも、万一の動きに備え、攻撃魔法の発動を準備する。



「ふうぅん……人間界最高の勇者、アロイスのパーティかぁ……確かにすごいわねぇ……以前の私では、手も足も出なかったでしょうねぇ」


 全身を漆黒のローブで覆った黒髪の女魔法使いレイラは、勇者パーティに囲まれてもなお、余裕の体勢を崩さない。


(…………なんだ? 奴から感じる魔力の大きさでは、私たち4人に敵うはずもない……だが何か嫌な予感がする)


 ヒューバートの頬を一筋の汗がつたう。


 こちらが圧倒的に優位な体制のはずなのに、なにか気圧される感触があるのだ。


「でも……あの”アイテム娘”達から吸収した力で……私はもう一段強くなれたのよぉ」


「本物の……”カオスヒールの夜”、見せてあげましょうかぁ!」


 ばっ……!


 レイラは、にやぁりと凄惨な笑みを浮かべると、漆黒のローブを脱ぎ捨てる……!



「!! その紋様は、魔の禁呪法……!?」


 露出されたレイラの手足には、ヘビがのたうち回るような紋様が描かれ、黒く発光している。


 彼女から湧き上がる黒い霧が、一気に膨らんで……!


「いけない! ”グラビティ・バースト”!」


「くっ……”マジック・シールド”!」


 危険を感じたシャロンが極大攻撃魔法を、ヒューバートが防御魔法を発動させる。


 バチバチバチッ……シュウウウウッゥ


「なっ……!? 攻撃魔法が、吸収されている!?」


 フイイイイィイィン……ズバアッ!


「くっ……防御フィールドが……反転して……ぐあっ!」


 レイラから吹き出した黒い霧に触れた攻撃魔法は、その威力を失い彼女に吸収され、緑色の防御魔法のフィールドは、紫色に変色、刃となり勇者パーティを襲った。


 一瞬で大きなダメージを負うパーティメンバー。


「くふふ……すべての魔法効果を反転させる……でも、これだけじゃないわよぉ?」



 ズズズズズ……



 黒い霧が勇者パーティの4人に絡みつき、徐々にその力と生命力を奪っていく。


「くそっ……これほどとはっ……」


「くふ、ふふふふ……高名な勇者パーティを倒した私の実績は、魔族の中でも最高位に……」


 高らかに笑う魔族レイラ。


 勇者パーティに最大の危機が訪れようとしていた。



 ***  ***


「……ヒューバートさんたち、大丈夫かなぁ」


「グラスぅ……そんなに心配なの? ヒューバートさんには、”魔族封じ”の術もあるんでしょ? 大丈夫だよ!」


 先ほどからしきりに王宮方面が気になる僕。


 僕が渡した報告書をもとに、調査を進めたヒューバートさんたちは、”魔族”の疑惑がある女魔法使いの存在を突き止め、本日捕縛に向かった。


 大丈夫、ここからは私たちに任せて……そう僕に連絡してから、勇者様パーティは王宮に向かったんだけど……。


 先日のポゥ誘拐事件で退治したあの”魔族”の妙な迫力……それが僕の頭の隅にずっと引っかかっていた。


「……ごめん、ポゥ! 少し王宮の様子を見て来るねっ!」


「あっ、まって! グラスぅ!」


 やはり心配だ……いてもたってもいられなくなった僕は、王宮に向けて店を飛び出した。



 ***  ***


「……さて、そろそろ終わりにしましょうかぁ……!」


 ぶあっ!


 黒い霧の力が一気に強くなる。


(くっ……まずい……なんとか隙を作ってアロイスとシャロンだけでも!)


 ヒューバートが悲壮な覚悟を決めた時……!



 ”XXヒール”!


 ぶわあああああああっ!



 膨大な魔力の奔流が、ヒューバートたちを包む……魔法効果を反転させていた霧が吹き払われ、七色に光る魔力の渦は、魔族レイラに向かう!


「くっ……またこのっ……あのガキねぇ!!」


 ズパアンッ!


 強制的に正常な状態に戻された魔力場の余波がレイラを襲い、衝撃で切れた彼女の額から青い血が滴る。


「大丈夫ですか、みなさん! ……”MPギブ”!」


 続けて発動したグラスの魔法が、全員のMPを一瞬で全快させる。


「グラス君か、助かった! Aヒール!」


 すかさず放たれたヒューバートの回復魔法が、全員のHPを回復させる。



「ひゅぅ~、これがグラス君のXXヒール! すごいな~!」


「さーて、グラス君が”カオスヒールの夜”とやらを封じてくれたし、今度こそ覚悟する事ね!」


 体勢を立て直したシャロンとヒューバートの対魔族捕縛術がレイラを捉える!



「……くふ、そうかもしれないわねぇ……でもぉ、私は終わらないわよぉ!」


 捕縛術に全身を拘束されてもなお、笑みを崩さないレイラ……次の瞬間!


 ズドオオオンンッ!


 レイラを中心に大爆発が起き、彼女の姿は爆発炎の中に消えた……。



「な! 自爆した!?」


「……いや、確かに気配は消えたが……」


「一時的に物理世界から撤退しただけかも……くっ……記録にある”魔族”のレベルとはけた違いの個体のようね……」


 突然練兵場で起きた大爆発に、驚いて集まってきた王宮の人たちに説明をしつつ、勇者たちとグラスは、レイラが今後どのような手に出て来るか、頭を悩ますのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ