第6-4話 初級術師、勇者様と王国を覆う怪現象を調査する
「これは……魔導オーブが壊されている?」
「はん、誰かが悪意を持ってやったっぽいよね……多分、今回の現象はコイツのせいだよ」
「魔導オーブをこれだけ粉々に壊せるなんて~……普通の人間の仕業じゃないみたいですね」
「それに、これはもしかして……」
アイテムの精霊である3人が、額にしわを寄せながら砕かれた”魔導オーブ”を手に取っている。
この王国の地で、おおきな陰謀が動き始めていることを、僕たちは感じていた。
*** ***
3日後、王都郊外のいつもの広場で、僕たちは勇者アロイスさんのパーティと合流していた。
「アロイスさん、今日はどこに行くんですか?」
本日の探索に参加する全員……アロイスさんのパーティ4人と、僕たち4人が揃ったことを確認し、アロイスさんに話しかける。
「今日はよろしく、グラス君」
「先日も説明したとおり、一部の迷宮で回復魔法の消費MPが上昇したり、初級回復魔法が発動しないといった事象が発生している……」
「今日はその事象が確認されたS-007迷宮に行こうと思っている」
「目的は調査だから、想定外の事態が起きたら、すぐ撤退するからそのつもりでいてね」
「了解です、アロイスさん」
あの勇者様が緊張の表情を浮かべている。
何が起きるか分からないという事だろう。
……これは僕たちも気を引き締めなければ。
「……なあポゥ、アロイスから聞いた事件……気になるよな?」
「うん……ポーションを使った人にダメージ……ヴァンさん、これって間違いないですよね?」
「そうね……前回の”カオスヒールの夜”……その始まりの時に私が見た光景に酷似しているわね~……ポゥちゃん、エルちゃん、しっかり調べるわよ」
3人のアイテム娘たちにも、緊張の色が濃い。
合計8名のパーティは、”迷宮山脈”の最奥に不気味な口を開けるS-007迷宮へと潜っていった。
*** ***
「やはり……全く回復アイテムがドロップしない!」
ざんっ!
アロイスさんの魔法剣が出現するモンスターを薙ぎ払っていくが、ドロップアイテムは金塊や武器防具など……ほかの迷宮では回復アイテムのドロップ率の「低下」が確認されていたが、ここS-007迷宮では、それがよりひどいようだ。
「それにやはり……回復魔法の効きが鈍い……消費MPも上がっているな」
僕たちを防御魔法でガードしてくれているヒューバートさんも渋い表情をしている。
ヒューバートさんはSSランクの回復術師なので、普通に回復術を使えているが、それでも影響は免れないみたい。
「あと、確かに”Dヒール”は発動しないな……”何かの力”に阻まれているようだ」
「むむぅ……回復魔法にかかる制約……太古の禁呪法みたいなモノかな? 迷宮の最奥を調べてみた方がよさそうだね」
ここでは”Dヒール”が使えないのか……いよいよ僕置物だなぁ……でもなんか、”使えない”気はしないんだよね……。
僕は無意識のうちに、かすり傷を負っている戦士フランツさんに手を伸ばす……。
「”Dヒール”」
パァァァ……
「!? これは、Dヒールが発動した? グラス君!?」
「……へっ?」
気が付いたら”Dヒール”を発動させていた僕。
ヒューバートさんの声で我に返る。
「ふむ……グラス君にはこの迷宮の影響が及んでいないのか?」
「無尽蔵のMPが影響しているのかも……」
ヒューバートさんとシャロンさんが驚きの表情を浮かべている……なんだろう?
僕的には、特に何も感じないんですが……”Dヒール”しか使えない最下級回復術師なので、これ以上レベルが下がりようもないから影響がないのかも……。
うう、自分で考えてて悲しくなってきた。
「あらあら……やはりグラスくんの力かしら?」
「にしし……アタシら3人を実体化するくらいだし? この程度の”枷”は効かないんじゃ」
「うん、さすがグラスだけど……この”枷”……下層に行くにつれて、どんどん強くなってる気がするね」
*** ***
1時間後、僕たちは迷宮の最奥へ到達していた。
すでに「制覇された」迷宮らしく、ボスモンスターも財宝も存在しない……そこにあったのは、無惨に破壊された”祭壇”だけだった。
「!! これって……エル、ヴァンさん!」
「うそ、祭壇が壊されている……いったい誰が?」
「むむ……ひでー事してくれんじゃん……」
破壊された祭壇を見た途端、アイテムの精霊である3人が声を上げる。
「ポゥ、エル、ヴァンさん、なにか心当たりがあるの?」
僕の問いに3人はうなずくと、冒頭の説明をしてくれたというわけだ。
「えっと、もう少し詳しく説明するね……」
砕けた”魔導オーブ”の破片を手に、ポゥが続ける。
「わたしたち”アイテムの精霊”は、この”魔導オーブ”を通じて世界各地に”回復エネルギー”を循環させていて……」
「そのエネルギーが、迷宮におけるドロップアイテムの源になるの」
「これは女神バレスタイン様が創った奇跡の産物……この世界の根幹をなす理の一部なんだよ」
「なるほど……各地の迷宮にある祭壇……女神の創造物であると言われていたが、そういう事だったのか……」
「本物のアイテムの精霊が言うんだもん、本当だよね……」
おおお、この世界の秘密の一端があっさりと明かされてしまった……こんなに可愛くてもやっぱり精霊さんなんだよな……改めて感心する僕。
ポゥの説明は続く。
「だから、女神様を信ずるこの世界の人たちには壊せないんだけど……壊せるとしたら」
ポゥの説明を、ヴァンさんが引き継ぐ。
「女神バレスタインに反する者たち……”魔族”と呼ばれるものになら可能かもしれませんね」
「いま、この国には”魔族”が紛れ込んでいる可能性があります」
”魔族”……それがこの騒動の犯人なんだろうか?
その後も続くヴァンさんの説明に、僕は勇者様たちと耳を傾けていた。
第5-3話に、ヴァンのイラストも追加しています。ぜひご覧ください!
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