第4-3話 初級術師兼店舗経営者、王宮へ出頭する
豪華だけど、派手過ぎない調度品……チリ一つ落ちていない、ふかふかのカーペット。
僕の目の前には……
冒険者ギルド長
儀礼役の騎士さん
王国物流大臣
王国軍大臣
王国軍参謀
勇者アロイスさん
それに……国王陛下
そうそうたるメンツが並んでいる……。
ごくり……思わず生唾を飲み込む僕。
ここは国王陛下の謁見の間。
どうしてこんなことに……思わず僕、遠い目をしちゃいます。
*** ***
始まりはバレスタインイベントの翌朝。
幸せな気分に浸り、ニヤニヤしていた僕の前に一人の騎士様が現れた。
170センチに届こうかという長身……艶やかな黒髪をさっそうと風になびかせるのは、王宮騎士筆頭のアンジェラ様!?
僕が驚愕に固まっていると、アンジェラ様は僕に一通の書状を手渡してきた。
この白ハヤブサの紋章は……ええっ、まさか王家の紋章!?
それは”王宮”への出頭命令だった。
えっ!?
僕、なんかやっちゃいましたかっ!?
お店で利益を上げ過ぎたんだろうか……ちゃ、ちゃんと納税はしているし……。
「た、たぶん……いいことだよっ! グラス、落ち着いてっ」
「ヤバイ事なら、騎士様が直接書状を持ってきたりしないって! どーんと構えて、グラス」
あわあわする僕と対照的に、落ち着いてフォローしてくれるふたり。
うう、そうだよね僕がこの店のオーナーなんだ……しっかりしなきゃ。
ひとまず書状にあるのは僕の名前だけ……。
ポゥとエルについて……見た目では全く分からないとはいえ、宮廷魔術師などの凄い人にはバレるかもしれない……。
その点を警戒した僕は、精一杯の正装をして、ひとりで王宮へ向かったのだった。
*** ***
「ふむ、グラスよ……貴殿の店を”王宮御用達”として、登録させてもらう」
「これを貴殿に授けよう……」
極限まで緊張した僕に掛けられた国王陛下からのお言葉は、驚愕の一言だった。
僕に下賜されたのは、1基の盾。
白ハヤブサが飛び立つ意匠のレリーフの真ん中に、王国を象徴する宝石であるエメラルドが埋め込まれている。
王都でも超が付く名店しか持っていないと言われる、”王宮御用達”の証である。
「はえ~……」
簡単な儀式の後、国王陛下は下がられ、僕は王宮内の会議室に移動し、実務者レベル……それでも勇者様とかギルド長とか大臣とかいるんですが!
と、打ち合わせを行っていた。
「……なるほど、ポーション類はノルドランドに仕入れのツテがあると」
「はい、店員の親戚がそちらにいますので……融通してもらっています」
いま僕が話しているのは、王国物流大臣だ。
僕の緊張時間はまだまだ続いていた。
「それなら、エーテルはどこから仕入れているのかね? エーテルのドロップ率が高い迷宮など、私は知らないが?」
「まさか、不正なことはしてないだろうね……くくっ」
次に質問してきたのは、神経質そうな顔をした王国軍大臣だ。
うっ……しまった……エーテルについてはうまい言い訳が思いつかなったので、いつも適当にごまかしていたんだった……どどど、どうしよう?
「まあまあ、軍大臣……前途ある若者をそう虐めることは無いでしょう」
「グラス君はあの高名な冒険者、オルブライト夫妻のご子息……かのオルブライト氏なら、エーテルがドロップする迷宮をいくつか知っていてもおかしくない」
「……そうだな、グラス君?」
「はっ、はい! 父さん……父と母の昔なじみの冒険者の方にも手伝って頂いてます!」
「さすがにハイエーテルを安定して手に入れるのは難しいのですが……」
おおお、ヒューバートさんがウィンクしながら僕のフォローをしてくれた!!
なんてステキな人なんだ……僕が女性なら一発で惚れているところである。
「ふむ……かのオルブライト家の子息なら、めったなことはしないでしょう……失礼したね、少年」
「い、いえ、恐縮です……」
どうにもこの人の視線は苦手だな……見透かされているような……。
というか、父さん母さんってそんなに高名な冒険者だったの?
あまり家では仕事の話をしなかったから……僕びっくりです。
その後、いくつかの実務的な通達を受けた後、正式な書面にサインし、ようやく僕は緊張時間から解放された。
はぁ~、疲れた……帰ったらエルに足でいろんなところをマッサージしてもらおう。
このドキドキ生産活動にも多少慣れた僕は、他の人に聞かれたら誤解されそうなことを考えつつ、家路につくのでした。
*** ***
グラスが帰った後、人が少なくなった会議室で勇者アロイスと回復術師ヒューバートは、小声で会話をしていた。
「アロイス……どう思う?」
「そうですねヒューバートさん……あのオルブライトさんの息子……それに物凄い”女神の力”を感じました……これはもしかして」
「”伝説のアイテム使い”……か」
「王国でも記録上だけの存在……もしグラス君がそうだとしたら、どこかで試してみる必要があるか」
ひそひそと相談するふたりをなにか思案顔で見つめる軍大臣……そのねっとりとした視線にふたりは気付いていなかった。
グラス君のお店、更なる躍進!
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