第4-1話 初級術師兼店舗経営者の日常
”エーテルの精霊”こと、エルが僕の店に加わってから1週間。
王都の道具屋組合の間に衝撃が駆け巡っていた。
ポーションに比べて需要は少ないとはいえ、そのレア度により安定供給が難しいと言われていた”エーテル”を毎日在庫切れ無しで販売する店が現れたのだ。
さらに、たまにであるがあの幻の”ハイエーテル”も店頭に並ぶという……。
僕のお店、”グラスとポゥの快復ストア withエル”は、偵察に来る道具屋さんも加わり、さらに盛況を極めていた。
「ふいぃ~よく寝たぁ!」
窓からキラキラと輝く朝日と共に、僕は自室のベッドの上で身体を起こす。
早寝早起きは父さん母さんから受け継ぐ僕のモットー。
大きく伸びをすると、部屋の隅のごみ箱にたまった沢山のティッシュが見える。
僕の”もんもん”の消化先なので、察した皆さんは触れないでね。
僕の朝は大量の朝ごはん作りから始まる。
ポゥとエルはそろって朝が弱いので、朝は僕の担当である。
”アイテムの精霊”は夜型なのだろうか?
まあ、迷宮の奥にこもってそうだし……。
そんな事を考えながら、僕はリズムよく玉ねぎを切る。
今朝のメニューはオニオンスープにハムエッグ、ベイクドビーンズだ。
ごく一般的な王国の朝食だが……問題はその量がキロ単位であることで……グラス家の家計に対する食費の割合は、70%を超えようとしていた。
商店街の八百屋、魚屋、肉屋のおじさんおばさんたちが最近ニコニコでいい服着てるの、恐らくウチのおかげだよね……。
1時間ほどかけて朝食を作り終えたとき、ようやくポゥとエルが起きてくる。
「ふああああっ……おはよぅ、グラスぅ……」
「にひ、おっはー! グラス……昨日はお楽しみだったぞぉ……」
「おはようポゥ、エル……ってエル、夜のお楽しみの事は言わないで……」
眠そうにぐしぐしと目をこするポゥと、顔を合わせるなりからかって来るエル。
まったくこのメスガキは……ていうか、”あんなこと”して興奮しない男子がいたら、僕に会わせてほしい。
「まず、顔洗って……みんなで朝ごはん食べよう」
「「は~い」」
ふたりが洗面所から戻ってきたら楽しい朝ごはん……テーブルの上にうずたかく積まれた大量のハムエッグ、ベイクドビーンズ、トーストと、大鍋2杯いっぱいに作ったオニオンスープが、瞬く間に彼女たちの胃袋へと消えていく。
その光景だけで満腹になりながらトーストをかじる僕。
アイテムの生成にごはんエネルギーが必要ってのはホントっぽいよね……。
感心半分驚き半分に彼女たちの食事風景を見つめるのでした。
朝ごはんの片づけが終わるといよいよ”グラスとポゥの快復ストア withエル”開店!
とはいっても、大口取引先にはまとめて納入するので、お店に来るのは単発で急遽補充に訪れる冒険者と、僕たちの店を偵察にきた道具屋さんが多い。
大体ポーションとエーテルの品質の高さに驚かれて、仕入れ先を聞かれるんだけど、企業秘密と断っていた。
美少女とキスしながら足で踏まれている光景なんて見られたら僕の人生終了なので、絶対の禁則事項です。
あと、美少女店員が二人もいるので、のぞきに来る一見さんも多い……今度隣の空き家を買ってカフェでも始めようかな……。
僕が思わず多角経営に思いをはせていると、店内にポゥとエルの陽気な声が響く。
「は~い、本日のポーション類は完売でぇ~っす! お買い上げありがとうございましたぁ!」
「へへっ……エーテルも終了~! 明日も来てくれるだろぉ?」
こんな感じで、最近は昼前に営業が終わってしまう。
これまた大量の昼ご飯を食べて(最近はデリバリーすることが多い)、閉店した店内の掃除をすると、僕たちは夜に備えて昼寝をする……彼女たちが言うには、ごはんエネルギーを回復エネルギーに変換するのに睡眠が最適らしいんだけど……本当なのかな?
ともかく、冒険者時代には考えられない贅沢な時間である……なにこの生活最高ですか?
昼寝の後はそれぞれ自由時間!
最近僕は、王宮に併設されている図書館に行って、店舗経営の本を読んで勉強したり頑張ってるんだけど……幼年学校以来の勉強……思わず眠くなるよね。
今日は趣向を変えて、ポゥを連れて王都デパートに買い物に出かける……。
新しい陳列ケースを探すためという事にしてるけど……僕の狙いは、そう、デートであるっ!
そこ、普通に誘えばいいじゃんとか言わないで……これが僕の精一杯の勇気なのである。
「うわ~、グラス! この陳列台、きれいだね~、ガラスじゃなくて……クリスタルで出来てるんだぁ!」
ポゥがクリスタル製の陳列ケースに感動している……5万センド……た、高い……!
「ふふ……お客様、お目が高いですね……貴金属や、デリケートな絵画などにもダメージを与えない最高級の陳列ケースです」
「お客様は良いお店をされてるんですね……あら、お若いですけど……もしかして恋人同士ですか?」
「ふあ!? は、恥ずかしいよぅ……」
「か、買いますっ!」
営業トークと分かっていても、乗せられて買っちゃいました……否定しないポゥがかわいすぎるんだもん……。
デパート最上階のカフェでケーキバイキングを食べ、エルへのお土産も買って、デート予算を大幅に超過しながら僕たちは家に戻るのでした。
夕食の後は明日に備えた生産(意味深)時間です。
ポゥとキスするのも、エルの足でマッサージされるのも、何度やってもドキドキものなんだけど……。
「う~ん、あのさポゥ、気になるんだけどさ……”ポーション”の場合は抱き合うと普通の、キスするとハイポーションなんだよね?」
「アタシのエーテル、ハイエーテルになる条件が分んないんだよね~」
「なんだろ?」
生産活動の後、しきりにエルが頭をひねっているけど……実は僕は知っている……エルの足が、ふとしたタイミングで僕のデリケートゾーンに触れたとき、僕の心臓の鼓動は跳ね上がるんだ。
そしてその時にハイエーテルが出来上がるのを。
この条件がバレると、僕の心臓はドキドキに耐え切れないに違いない。
当分このことは黙っていようと僕は心に誓うのでした。
という感じで最近はとても楽しい生活を送ってます……あれ、これってもしかしてリア充な生活って奴じゃない?
ふぅ、冒険者をやめて本当に良かった!!
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