第1-1話 初級術師、パーティとギルドを追放されるというか脱退を考える
「はぁ? ポーションを何個でも用意できる?」
「……あのなぁ……Dヒールしか使えねーポンコツ回復術師のお前が、ポーションをたくさん用意しても、お前の地位は変わらねーよ!」
「ポーションの回復量知ってるか? HP30だぞ30! お前のクソ雑魚Dヒールと大して変わんねーじゃねえか、なあみんな!」
「あはは! 違いないっす、ルード!」「はっ……無能なお前は隅っこでひたすらDヒール使ってるのがお似合いだな……」
これでパーティのみんなに貢献できる!
手に入れた新しい”スキル”を披露した僕に、パーティメンバーから容赦ない罵声が浴びせられる。
僕はグラス……初級回復術師として、いま僕をあざ笑ったAランクの……ルードをリーダーとした冒険者パーティに参加しているんだけど、最下級の回復魔法であるDヒールしか使えないので、いつも馬鹿にされていた。
そんな僕、”あるきっかけ”で、ポーションの【無限増殖】が出来るようになったんだ!
これで、パーティ内の地位も向上できる!
みんなも褒めてくれる!
意気込んで報告に行った結果がこの扱いである。
うう、昔から気弱な僕は、リア充なルードに言い返せない……彼らの部屋を追い出され、とぼとぼと歩く僕。
所属するパーティ変わろうかなぁ……僕の足は自然に近くの冒険者ギルド支部へ向かったんだけど……。
「はぁ? ポーションを何個でも用意できる?」
「あのなぁグラス、ポーションの取引額知ってる? 10センドだぞ10センド! ナイフ一本買えねーよ」
「そんなしょうもないスキルを自慢する暇があったら、自分の回復術師のレベルを上げろよ!」
「……ああそうだった、来週になったらうちのギルドにAヒールが使える上級回復術師が来る予定だ」
「ギルドの登録枠にも王国の制限があるからな……そうなったら回復術師最下位のお前は除名だ除名」
「ま、最後の冒険者生活、せいぜい楽しんでおくんだな」
さらにひどい扱いで追い払われてしまった……。
ううう、僕が所属している冒険者ギルド支部の担当が、なんで昔僕をイジメてたブライアンなんだよ……絶対嫌がらせだろあの態度。
回復術師は貴重とはいえ、Dヒールしか使えず、どんだけ鍛えてもレベルアップしない初級回復魔術師ではなぁ……。
いよいよ冒険者の道はあきらめて、町人Aとして生きていくしかないのか?
商売するの苦手なんだよなぁ。
さらにどんよりした僕は家路を急ぐ。
僕の家は王都の下町、商店が集まる一角にある。
今はいない両親がお店をしていたおかげで、住むところには困らないのが幸いなんだけど……。
「……ただいま……はぁ」
僕はガチャリと裏口の鍵を開けると家の中に入る。
「グラス、おっかえり~!」
「早かったね? みんなの反応はどうだった!? めっちゃびっくりだったでしょ!」
思わずため息をついた僕に、陽気な”おかえり”の声が掛けられる。
裏口から続くリビングで、ソファーに座ってくつろいでいるひとりの女の子。
見た目は15歳くらい。
朱色に近い短めの赤毛を持つ、くりくりとした目の美少女。
襟付きの紺色のジャケットに白い清楚なミニスカート。
すらりと伸びた脚を同じく白の二―ソックスが包んでいる。
ニコニコしながら立ち上がり、ててっと駆け寄ってきてくれる。
とてもかわいい。
「あっ! もしかして、持って行った”ポーション”、全部なくなっちゃった? えへへ、嬉しいなっ」
「じゃ、補充しとこう!」
ぎゅっ!
「わわっ?」
彼女は、なるほど、という顔をすると、僕に抱きついてくる。
ぱああああっ
その瞬間、僕と彼女の間にまばゆい光が生まれ、そこからころころと10個ほどの”ポーション”が転がり出る。
「はい! これでばっちりだね!」
にぱっと笑う彼女に、僕もつられて笑顔になっていた。
”ポーション”
……言わずとしれた下級回復アイテム。
この世界でも、とてもありふれたもので、あちこちの道具屋で売っている。
回復量も少ないので、初級冒険者以外はあまりお世話になることは無い。
ただ、たった今起きたように、何もない所から急に出てくる事など、流石にあり得ない。
なんで僕と彼女でこんなことが出来るかというと……
「ポーションならいくらでも作ったげるから! いつでも言ってね!」
ふんす、と両手でガッツポーズを取った彼女は、実は人間じゃない。
「この”ポーションちゃん”におまかせだよっ!」
そう、彼女は僕がとあるきっかけで出会った、ポーションを擬人化した少女、”ポーションちゃん”だ。
「ごめん、ポーションちゃん……パーティリーダーのルードと、ギルド支部担当のブライアンからコテンパンにされたよ……」
抱きついてきたポーションちゃんの肩を持ち、身体を離すと、僕は盛大なため息をつく。
せっかくポーションちゃんが頑張ってくれたのに……。
「ええ~っ!? なんでぇ?」
「わたし、誰とでも”こんなコト”出来るわけじゃないんだよ?」
「数千年に及ぶ”アイテム”の歴史でも数例しかない超すーぱーうるとられあスキルなのにっ!!」
「そいつら見る目がないねっ! グラスは悪くないよっ!」
僕に対する理不尽な扱いに、腕をぶんぶん振りながら本気で怒ってくれるポーションちゃん。
ああ……傷ついた心が癒される……思わずポーションちゃんの頭を撫でる僕。
サラサラふわふわの手触りが気持ちいい……。
事の始まりは数日前……。
新連載です!
擬人化ざまぁモノがあまりないので、始めてみました。
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