オタクOL、就職先の上司に会う
2022/5/10 全編改訂しました。(時間がかかりました……)
以前とはかなり内容が変わってますので、続きをお待ちください。
オッス、オラ、西山アリス!前回までのおさらいをするぜ!なんやかんやで就職先が決まった、というか、決まってた!あと、なんか、大和撫子が叫んでる!
以上だ!(説明がへたくそだぁ?仕方ないだろ!語彙力がどこか彼方へ飛んでいったオタクなんだから!)
「だからよぉ、水葉。尊いメータ―ってなに」
呆れたような櫻月様のお声に、水葉と呼ばれた大和撫子は関西風な喋りで答える。
「尊いって、尊いや。それがなんか?」
「……はぁ、聞いた僕が馬鹿だったよ。水葉、遅刻の理由は?」
「そこで小鳥のカップルが尊いことやってたで」
頭を抱えた櫻月様。
「……こいつに、常識を聞くのはやめよう」
「なんやと??この本家で誰よりも常識人であることを自負しとるわてに?常識を聞くのをやめるやと?!」
もう呆れた視線しか送らない櫻月様。あきれた視線ですら様になるとか、イケメンってすげぇな。
「水葉、亜矢佐より、常識人、って、いえ、る?」
ふいに来た女の子の質問に、女性はぐっ、とつまる。
「もういい。常識の話は忘れろ……」
長い溜息をついた櫻月様。椅子に座るように指示を出す。
私を含め全員が席をつくのを確認すると、クラムさんがお茶を注ぐ。
香りのよいアールグレイ。絶対いいところの茶葉ってわかるやつ。程よい柑橘系の香りが鼻に抜ける。口当たりも大変いいものだ。これはクッキーやスコーンに会いそうだな。(語彙力は現在回復中。)
「で、わてを呼んだいうことは、この子が役割もち?」
「そうだ。これに関してはお前のほうが何をするのかよく説明できるだろ」
水葉さんは、こてん、と音がしそうな感じで首を傾げた。
「あのな、櫻月」
「なんだ」
優雅に紅茶を飲む櫻月様。エレガント。
「わて、確かに役割もちを守るのも仕事やけど……。役割もちが何をやってるのか全く知らへんで」
櫻月様が紅茶を吹き出した。女の子も狼も後ろに宇宙を背負ってる。クラムさんも驚いて、お代わりを注いでいた紅茶がこぼれている。
かくいう私も驚いて、おいしい焼き菓子(お茶請けに出されていた)を紅茶のカップの中に落としてしまった。
「は???」
「いや、は?やないねん。ほんまや。そういう約束で、わてはこの役割をもってるんや。何でやったかは、覚えとらへんのやけど」
困ったようにいう水葉さんに対し櫻月様は何かを思案するような素振りを見せた。
そして、思い出したように顔をあげた。
「あぁ、そういうことか。お前自身、なぜ(・・)その(・・)制約下で(・)ない(・・)といけ(・・)ない(・・)の(・)か(・)強制的に(・)記憶を(・)消されてる(・・・・・)のか(・・)」
「うーん。たぶんそやで」
「いや、納得した。ありがとう水葉」
ふっと、ほほ笑む櫻月様。
「まぁ、ええねんけどな。せやけど、安心しぃ。役割もちは必ず守る」
「仕事に関してはお前を疑うなんてしないよ、僕も」
「?仕事以外は?その言い方やと仕事以外は疑ってるってことになるねんけど?」
水葉さんの不満に対し、櫻月様は真っすぐに、真顔で言った。
「当たり前だろ。お前の生活力のなさ、趣味に関しての言動には疑いをかけている。お前に常識は到底ないと思ってるから」
水葉さんは宇宙猫の顔。真顔の櫻月様。苦笑いの女の子、クラムさん、耳をぺしょっとしてる狼。私はどうしたらいいかわからない。
「なんでや!!!!!!」
水葉さん渾身の叫びが部屋にこだました。
「とはいえ、すぐに案内するのは疲れるだろう。明日にしよう。クラム、長屋に案内してやれ」
「ウィ、主。さぁ、お嬢さん今日はゆっくり休み給え。水葉様、お手数だが明日この世界に関して詳しくまた説明してもらっても?」
水葉さんは、私に向かってなのか、クラムさんに向かってなのか、わからないが妖艶にほほ笑んだ。
「ええで。可愛い子。わかりやすぅ教えたるからな」
この世界は美男美女で出来上がってんのかな。いたって普通のモブ顔のオラには厳しい世界かもしれない。
そして、あまりのさりげなさに忘れるところだったがクラムさんにエスコートされて席を立つ。
「あ、あの、お世話になります」
辛うじて紡げたお礼の言葉。他にもっと言うことあるだろうとか思ったけど、これしか出てこなかったんだ。
「ふふ、楽しみにしてるよ、アリス」
櫻月様からありがたいお言葉。
「ばい、ばい」
女の子はひらひらと手を振る。
「はい、お先に失礼します」
こうして、私、西山アリスの異世界初日の二分の一は終わったわけである。
さて、エスコートされながら向かった先は長屋、というより、和風なシェアハウスといったほうが正しい建物だった。(その間、私は瀕死だ。)ていうか、エスコートって何。え?これ執事喫茶か何か?お布施をさせてくれ?
そんなことを考えている私をよそにクラムさんは目的の人を見つけたのか、笑顔で声をかけた。
「マドモアゼル・マキ!よかった、彼女が噂の新人でね。この長屋について案内してくれないか?」
「……構わないよ。ほら、こっちきな」
マキ、と呼ばれた人は、頭に角の生えた女性だ。とても美人。桃色の髪、お手入れに気を使っていることが分かる。
「じゃぁ、あとはマドモアゼル・マキが説明してくれるからね。俺はそろそろ主のご飯を作らなきゃいけないからここで。あぁ、そうだ。明日からこれを着けておいて。社員証みたいなものだからね。また明日迎えに来るよ」
私に小包を渡すとクラムさんはウインク一つ残して去っていった。
最後の最後までイケメンだったな……。
「あんた、大丈夫?何もされてない?」
心配そうに聞いてきたマキさん。
「?いえ?むしろここまでエスコートしてくれましたよ」
「……そう。良かったわ。あぁ、自己紹介が遅れたね。あたしはマキ。鬼族だよ」
「こちらこそ。西山アリスと申します」
鬼も美人さんなんだ……。目の保養だな!
でも、なんでそんなに心配そうに聞いてきたんだろう。ほっとした顔を見ると聞くに聞けないから、胸の内にとどめておくことにした。
次回!長屋のメンバーを紹介するぜ!またもやオラ卒倒しそうだぜ!
「今戻りましたよ、主」
クラムは書類に向き合っている櫻月に声をかける。
「お帰り、クラム。ご飯は鶏の炊き込みご飯がいい」
「ねぇ、俺リクエストは早めにって言ったよね??しかもそれ時間がかかるやつ」
「味は醤油で」
「主?!俺の話聞いて!?」
書類から目を離さず会話していた櫻月は、ここでようやく顔をあげた。
「……お前、そんな顔してるからマキに疑われるんだぞ。いくら美味しそうに見えても少しは自重しろよ、ジョーカー(・・・・・)」
彼の主は、興味のなさげだが、冷たい視線を彼に寄こす。
それに対し、クラム——ジョーカーと呼ばれた金髪の青年は、真顔になったが、すぐに笑顔になった。
「なぁんだ、視ていたなら言ってよ主。確かに、美味しそうだったよ、あの子。あの精神、考え方、料理しなくても、してもいいと思うんだ」
しかし、主である櫻月は全く興味がないとばかりに言葉を紡ぐ。
「お前の異常性は理解しているし、そんなことに一々注意をかける手間が惜しい。その顔をしまえないようなら、お前はそれだけの価値だというだけだ」
「甘いヨ、甘いヨ、櫻月。嗚呼、でも、もうこのことに飽きてるネ」
暗闇から、軽やかな青年の声がする。金髪の青年を嗤うように、愉し気に。
金髪の青年-ジョーカーは、気にせずに悪戯っぽく笑い返した。
「おや、櫻影。やはり、主のことは君にしか分からないのかね」
櫻月の背中から抱き着いていた青年はふわりと空中に浮いている。赤と白が混じった髪色、右は紅玉石のような紅、左は瑠璃のような碧。どこか幼さを残した顔立ち。
青年、櫻影は悪戯っぽく返したジョーカーに気を悪くしたのか、口をへの字に曲げた。
「ケッ、お前に何言ったって面白くもありゃしなイ。まぁ、そういうとこなんだろうけどサ」
「なんだ、拗ねたのか?いや違うな。八つ当たりか」
黙って聞いていた櫻月ににやりと笑われた櫻影は怒りもしない。寧ろそのまま不貞腐れた。
「おうおう。そこで不貞腐れてんじゃねぇよ、従兄弟よ」
「五月蠅いネ!落ちてきた人間が全く見つからないし!しかも、勝手に時空渡りした奴がいるし!」
余程腹が立っているのか、櫻月の髪を勝手にいじる。
この青年、櫻月の従兄弟であり、影である。櫻月本人が表舞台に立ち、櫻月の望むことを忠実に、櫻月の(・)興味の赴くままに動く男である。
「困ったね。だけど見当ついてるんだろ?君と、主のことだから」
ジョーカーにそういわれた櫻影はふわふわ浮きながらため息をつく。
「やったやつが予想ついてるから余計に腹立つ。って、なに。なに櫻月」
櫻月はおもむろに、櫻影に向き直ると、両脇に手を入れ、持ち上げた。
いわゆる、高い高いである。
「何してるの?!主?!」
「ちょっと?!櫻月?!僕、何で持ち上げられてるのサ?!」
男二人が驚く中、櫻月は不思議そうに首を傾げた。
「櫻影、小っちゃいから高い高いしたら喜ぶかなって」
数秒の沈黙の後、櫻影の絶叫が響いた。
「僕は、ちびじゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ここで身長に関する記述をしておく。櫻影の身長は165センチと男性にしては小柄である。ちなみに櫻月は身長170センチ、ジョーカーは180センチ。
櫻影は小柄なことがコンプレックスな櫻月の従兄弟である。
読者の皆様方、こんにちは、あるいはこんばんは。塩焼やまめです。感想、ありがとうございます!読んで励みにしてます!4話も鋭意執筆中です。
登場人物の名前に関してご指摘があったので次話行こう気をつけていきます(自分はわかるから、うっかりしてた……)
気長に待っていただけると嬉しいです。