火の鳥はどこ?
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
※
現実はアニメみたいにはいかないよな。
ダンジョンに到着し、洞窟の中に入ってすぐに、僕は浮かれていたことを猛省した。
カルちゃんは、カルちゃんという名称に相応しくなく、
可愛さのかけらもない、獰猛さだった。
リオナ置いてきて正解。
女の子に火傷の傷なんて残ったら、大変だもんな。
僕の左腕が大火傷する状態で、僕は思った。
6組のパーティがいたが、カルちゃんの勢いに後ずさって、戦意喪失している。
ハウルのカルちゃんかと思いきや、そいつはただの火事だった。
消防の装備も整えていないまま、火事の現場に乗り込むような危険さだ。
スケールと火の勢いが違う。
耐火ボードは思わぬほど役に立った。
「火の鳥だ」
樫木がそう叫んでいるが、僕には鳥の姿には見えなかった。
「この洞窟、どっかからガス出てるんじゃない!?」
見えない僕と、見える樫木との認識は全く違う。
「何匹いるんだよ」
「壁側背中にするか?」
和木と樫木は見えてみる者同士の会話をしている。
でも待って!
もしガスだったとして、そしたら壁とか地面とかから吹き出して引火してるんだから、壁側は危ないよ。
「だめ!できたら三人、背中合わせにして先に進もう」
尋常じゃない熱さの中、一生懸命冷静に状況判断する。
確かに勢いがすごいから、炎は羽のように見えないことはないけど、火の鳥には見えない。洞窟のありとあらゆるところから、火が噴き出しているように見えた。
消せない炎だ。
樫木や和木は幻覚見てるのかな?
洞窟の中のガスには、幻覚見せる作用だってあるから。
樫木は陰陽師として九字を切って呪文を唱える。
和木は刀を振り回す。
僕は耐火ボードで彼らに迫る火の勢いを遮った。
ただ一瞬の反応の遅れで、僕の左腕を炎に包まれた。
「あちちちっ!」
「うわ、火の鳥に鷲掴みにされたで」
僕の状態を、樫木はそう表現した。
確かにちょっとだけ浮遊感は感じたよ。
でも火の鳥、僕見えない。
ガス軽く爆発して、強い風圧を感じただけに思える。
「これ、どうやって捕縛するの? このままじゃ焼け焦げちゃうよ」
ガスだったら、絶対に捕縛なんて出来ないのに。
僕は自分の左手をぶんぶん振って火を払い、再び防御体勢を取った。
「ちょっと待っててな。退魔法、もうちょっとで完成するから」
樫木は煤こけた顔を腕で拭いながら、前に出て更に呪文を唱える。
樫木の呪文が終わる頃だった。
周辺の空気が一瞬止まった。
「よし!今」
樫木は横一文字に右手を払った。
不思議な光景だった。
全ての炎が一瞬で消える。
樫木の一振りで、まるで蝋燭の炎を吹き消したかのように、炎が消える。
「酸素がなくなって火が消えた!? ガス欠?」
僕は興奮して大声で言った。
「やっぱ森は最後まで見えないか」
「見えないんだね」
樫木と和木が顔を見合わせて苦笑していた。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月12日