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オタクの青春は異世界転生  作者: 一桃 亜季
98/144

火の鳥はどこ?

気ままに投稿しています。

お付き合いよろしくお願いします。

        ※


 現実はアニメみたいにはいかないよな。


 ダンジョンに到着し、洞窟の中に入ってすぐに、僕は浮かれていたことを猛省した。

 カルちゃんは、カルちゃんという名称に相応しくなく、

可愛さのかけらもない、獰猛さだった。


 リオナ置いてきて正解。

 女の子に火傷の傷なんて残ったら、大変だもんな。

 僕の左腕が大火傷する状態で、僕は思った。


 6組のパーティがいたが、カルちゃんの勢いに後ずさって、戦意喪失している。

 ハウルのカルちゃんかと思いきや、そいつはただの火事だった。

 消防の装備も整えていないまま、火事の現場に乗り込むような危険さだ。

 スケールと火の勢いが違う。


 耐火ボードは思わぬほど役に立った。


「火の鳥だ」

 樫木がそう叫んでいるが、僕には鳥の姿には見えなかった。

「この洞窟、どっかからガス出てるんじゃない!?」

 見えない僕と、見える樫木との認識は全く違う。


「何匹いるんだよ」

「壁側背中にするか?」

 和木と樫木は見えてみる者同士の会話をしている。


 でも待って!

 もしガスだったとして、そしたら壁とか地面とかから吹き出して引火してるんだから、壁側は危ないよ。


「だめ!できたら三人、背中合わせにして先に進もう」

 尋常じゃない熱さの中、一生懸命冷静に状況判断する。


 確かに勢いがすごいから、炎は羽のように見えないことはないけど、火の鳥には見えない。洞窟のありとあらゆるところから、火が噴き出しているように見えた。

 消せない炎だ。

 樫木や和木は幻覚見てるのかな?

 洞窟の中のガスには、幻覚見せる作用だってあるから。


 樫木は陰陽師として九字を切って呪文を唱える。

 和木は刀を振り回す。

 僕は耐火ボードで彼らに迫る火の勢いを遮った。


 ただ一瞬の反応の遅れで、僕の左腕を炎に包まれた。

「あちちちっ!」


「うわ、火の鳥に鷲掴みにされたで」

 僕の状態を、樫木はそう表現した。

 確かにちょっとだけ浮遊感は感じたよ。


 でも火の鳥、僕見えない。

 ガス軽く爆発して、強い風圧を感じただけに思える。


「これ、どうやって捕縛するの? このままじゃ焼け焦げちゃうよ」

 ガスだったら、絶対に捕縛なんて出来ないのに。

 僕は自分の左手をぶんぶん振って火を払い、再び防御体勢を取った。


「ちょっと待っててな。退魔法、もうちょっとで完成するから」

 樫木は煤こけた顔を腕で拭いながら、前に出て更に呪文を唱える。


 樫木の呪文が終わる頃だった。

 周辺の空気が一瞬止まった。


「よし!今」

 樫木は横一文字に右手を払った。

 不思議な光景だった。

 全ての炎が一瞬で消える。


 樫木の一振りで、まるで蝋燭の炎を吹き消したかのように、炎が消える。

「酸素がなくなって火が消えた!? ガス欠?」

 僕は興奮して大声で言った。


「やっぱ森は最後まで見えないか」

「見えないんだね」

 樫木と和木が顔を見合わせて苦笑していた。


「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月12日

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