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オタクの青春は異世界転生  作者: 一桃 亜季
94/144

残された者

気ままに投稿しています。

お付き合いよろしくお願いします。

        ※


 社務所に行くと、神主と若い巫女が待っていた。

「遠いところよく来たね」

 神主は樫木の父だと言った。


「初めまして、よろしくお願いします」

 私たちは、ペコっとお辞儀する。


 巫女の方もつられて頭を下げた。

「ええっと?」

 彼女はどちら様でしょう?


「あ、私今日はお父様に聞いてこちに伺ったんです。一緒にお話しさせてもらいたくて。いいでしょうか?」

「お父様ということは、妹さんですか?」

 まだ中学生くらいにしか見えない。

 身長の小さな女の子だ。


「いえ、私アキの婚約者の、茜といいいます。」

 婚約者!?

 この小さな女の子が?


 面食らって言葉を失ったが、彼女は「よろしくお願いします」と握手を求めてきた。

 日本なのに、握手とかって慣れてないことを要求されて、アイはおずおずと手を差し出した。


「迷惑じゃなければ彼女も一緒にいてもらっていいかい? 彼女はアキの婚約者で幼馴染の茜君だ。ある意味私以上に、アキのことわかっている人だ」

 樫木の父にそう言われて、「そういうことなら是非」とアイは言った。


「ちょっと本殿まで散歩しながら、話しましょう」

 樫木の父は先を歩いた。


「茜君の家は、うちと代々親しくしていてね。家族ぐるみで遊んでいるうちに、アキと茜くんが仲良くしてたんで、親同士で将来一緒になってくれるように見守ってた」

 前を行く樫木の父の背中が、何だか寂しそうに見える。


「でもそれがいけなかったのかな?

 一人息子だし、神社の跡取りだったから、やりたいことを我慢させて、地元の高校に行かせたし、本人の希望をあまり聞いてこなかった。

 今まで言うことを何でも素直に受け入れる優等生だった。

 でも地元の高校に入学してすぐだったかな。

 たぶん、今まで我慢してたものが一気に溢れ出したんだと思う」

 一呼吸おいて、茜の顔をチラっと見た。


「気にしないでください、お父さん」

 将来、義理の娘になるつもりだったのだろう。その呼びかけは本当の父娘のように自然だった。


 樫木の父が話を続けた。

「高校生になってすぐ、アキは書き置きひとつ残して家出した」


『わいは、神社なんて継ぎたくない。親の決めた結婚なんて、絶対にしない。

バスケでインターハイに行きたいし、これからの人生は自分で決める。

バスケの強い学校に編入するから、探さないで』


「驚いたよ。確かに中学校の時に、神社の修行の余暇を見つけては、バスケの部活に行っていたけど、まさかそんなことを考えているなんて思いもしなくて」

「アキはずいぶん前から悩んでました。

 ーーでも自己主張すると、私に申し訳ないかもとか、家に迷惑をかけるとか、そんなことを考えてて。

 最初はバスケの仲間とキャンプしたり、自転車乗ったりしてたんだけれど、だんだん一人でいることが多くなった」


 茜は悲しそうにアキのことを思い出して語る。

「我慢して、我慢して、どっかでプツって糸が切れてしまった。限界になった時、たぶん私のことも煩わしくなったんだって思いました」


 二十歳になったら結婚する相手だと、ずっとそう言われてきたのだという。

「私はアキのこと、優しくて頑張り屋で大好きだったけど、今になったらアキにとって自分がどうだったかわからない。

 お二人はアキのご友人でしょう? 

 新しく編入した学校で、彼はどんな生活をしていたんですか?」

 茜の問いかけに、戸惑いながらコウが答えた。


「今の話が信じられないくらい、いつも自己主張強くて、それが逆に気持ちいぐらいで、ーー毅然としたやつだったよ」

「そう」と茜はほっとしたようだった。

「じゃあちゃんと自分の殻を破って、好きなことして生きてられたんですね」


「そう見えた。バスケも誰よりも楽しそうにしていたし。インハイに行く前の日なんか、ーー俺に電話してきて……、興奮しているのか何時間と電話切ってくれなくて」

 ちょっと言葉を詰まらせながら、思い出を口にするコウは、また涙を堪えているようだ。


「それ聞けて、良かったです」

 茜はハンカチで自分の目尻を拭った。

 彼女もまた先に行ってしまった人を思い、置き去りにされて傷ついた人だった。


「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月10日

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