表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクの青春は異世界転生  作者: 一桃 亜季
92/144

強くなりなよ

気ままに投稿しています。

お付き合いいただきありがとうございます。

         ※


 幼馴染というくらい親しかった和木の家で泣かなかったコウが、高野山の金剛峯寺の正門をくぐった瞬間、ロードを降りて俯いた。

 そしてしばらく動かない。


 ぽたぽたとコウからしたたり落ちるのは、汗だけじゃない。

 軽口を叩きながらも、登ってくる間中、言葉を詰まらせている弟のコウの気持ちを感じ取っていた。


 だから電動でもなんでも、コウの前を進んでここまで登ってきた。

 残念ながら自分には友達と言えるほどの親しい友人はいない。

 それは人間関係よりも、夢中になったものが多かったから。


 そんな自分でも寂しいと思わずにこれまで生きてこられたのは、

守らなければならない弟のコウがいたからだ。


 アイはコウにとって戸籍上は姉だけれども、時に友人で、母であり父でもあった。

 ロードの上に俯いて、はぁはぁいっている弟のヘルメットを脱がしてやる。


「すごいじゃん。ちゃんと自宅からロードで登った。樫木くんとの約束守れたね」

 昔だったらコウは顔をあげて泣きじゃくった。

 くしゃくしゃの顔で、自分にしがみついてきたと思う。


 でも少しだけ大人になったコウは、うつ向いたまま、流している涙を汗のようにカムフラージュするあざとさを身につけている。


 騙されてやるから、あと2、3分で泣き止みなさいよね。

 コウの悲しみや気持ちがしみるくらいわかるから、少しの時間は待ってあげるね。


「お昼、荒野豆腐食べたいんですけど。よもぎのヤキモチだけじゃ、まだ空腹なんですけど」

 無造作にアイはコウの体をぽんぽん叩いた。


 強くなりなよ。

 そんなこと、口に出しては言えないけれど、項垂れたコウの肩をぎゅっと抱く。


 自分の心とか生き方を見直すには、十分すぎるほど霊験あらたかな場所がここにはある。

 

 悲惨なバスの事故。

 ほんの一瞬の出来事で、友達と、1年目のインターハイという夢を失ったコウ。

 死んでしまった人はそれはもちろん無念だろうけど、残された者の悲しみは生きている限り永遠に続く。


 今のままじゃ2年目のインターハイなんてとても目指せないと思う。

 きっとバスケットをする度に、失ったチームメイトのことを思い出すだろう。


 アイにとってそれはどうでもいいことだけれど、

 コウにとってそうではないのなら、ーーコウがもう一度夢を見るために、克服して欲しい現実だと思った。

「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月10日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ