どれだけ俺が好きだよ!?
気ままに投稿しています。
結構書いたかも。
キャラも育ってきた。
お付き合いよろしくお願いします。
※
表向き華道の家元、裏側は和木組という893の複雑な家の中に、
アイはコウを連れて上がり込んだ。
庭先のハウスで再会した兄妹は、長い空白を埋めるのにさほどの時間はかからず、すっかり打ち解けた様子だ。
純和風の玄関は、今時珍しい土間である。
古民家のようでいて、建物自体はかなり新しい。
40畳ほどある畳座敷に上がると、立派な欄間の装飾が目に飛び込んできた。
「ひろっ!」
コウは心なしか驚いている。そして言った。
「僕が前に来たとき、和木はここじゃないところを案内してくれたんだけど」
「ああ」
タクミがうなづく。
「ヨースケは離れでくらしていたから、本家の西側に案内されたんだろう。後で行ってみよう」
でもその前に、とタクミは二段になっている刀掛けから、一本の刀を手に取った。
「わぁ、懐かしい!」
ルイはタクミからそれを受け取り、頬ずりしそうな勢いで目を輝かせる。
「実家にこんなものがあったから、私のコレクター壁が形成されたのよね」
ルイは笑った。
「実はヨースケも、刀というか刃物全般が大好きでね。
華道を教えるにあたって、よく切れる鋏を与えてやったら、その切れ味が気に入って、
最終的に刀の魅力にハマったらしい」
「足利家の宝刀ね」
ルイが言うと、タクミがうなづいた。
「二本そろってたんだけど、この一本を、泊まりに行くときは常に持ち歩いていた」
物騒だぁ。
アイは、いつも目が座っているヨースケを思い出し身震いした。
特に自分を見るときは、毛虫を見るような物凄い嫌悪感を感じていた。
コウは小さい時から物怖じしない子だったけど、こんな世界で生きてきたヨースケと幼馴染として付き合ってきたとは、本当に驚かされる。
「そういえば、いっつも布に入れた長い棒きれ担いでたな。竹刀かと思ってたけど、本物だったんだ」
呑気者め。
もしお母さんだったら、息子心配して完全に絶縁させてたかもだよ。
アイは苦笑いする。
まあ自分は、弟の人間関係に口出すのは、弟がおかしくなった時だけと決めている。
付き合う連中が悪くても、コウがコウのままなら、それはそれでいい。
893と付き合ってもコウが変わらないのなら、そしてずっと付き合っていたなら、和木はそう悪い人間じゃなかったと言うことだ。
「ヨースケはあんまり自分の事や家の事に、他人を入れたりしない子だったんだけど、
うちに来たことがあるってことは、君はヨースケにとってずいぶん特別だったんだな」
「幼馴染で、親友でした。――おっしゃるとおり、秘密主義であんまり自分の事話したがらなかったから、よくわからない部分も多いんですけど」
「それは君に迷惑をかけないようにだと思う。好き嫌いがはっきりして、……いたから」
過去形になってしまうのが寂しい。
ここにいる全員の胸がぎゅっと痛むのが伝わってくる。
「この子達がいうには、二人は仲良くどこかで生きているらしいわ。おかしいわね、従弟同士でこの世では関わり薄かったのに、今一緒にいるんだもん」
「ああ。悲惨な事故だったけど、なんとなく深いつながりは感じる」
タクミは和木が暮らしていた別棟に案内した。
「昔からあの子は草花が好きな子でね。ハウスで育つ植物だけじゃなく、離れにはありとあらゆる種類の草花を植えて育てていた」
離れの裏庭を見せてもらって、アイはため息をついた。
そこは植物の宝庫だった。
よく知っているハーブ類だけではなく、薬草から山菜、山野草、野草、樹木が種類豊富に手入れされて、並んでいる。
おそらく日向とか日陰になる場所も、
計算づくで育てているようで、すべての草花が青々と育っている。
「まめだったんですね」
「日頃愛想のないやつだったが、長く家を空けるときは、必ず私に代わりに世話を頼んできた」
離れの家の中に入ると、植物に関するありとあらゆる資料が並んでいた。
森もオタクだと思ったが、和木も違った意味のオタクだった。
整然と整えられた書物と、乾かした薬草。
調味料のようなものも揃っている。
「もしかすると料理も好きだったんですか?」
合宿中、調理班を森と一緒にやっていたのを思い出して、アイは質問した。
アイも日常料理をしている。
整然と整えられた調味料と料理器具、おそらくスパイス等は自作していたのだろう。
すごい種類だ。料理の本も相当量あるようだ。
「外食は嫌いだったからな。私が本家に居ないときは、こっちの棟で一人でご飯を作って食べていたようだ。早くに母親を亡くしたし、兄弟もいなかったから、気が付いたら無口で引きこもりがちになってたよ」
「お母様がなくなったのは、5歳くらいだったんですよね? その頃ちょうど僕は彼と出会ったから、記憶にあります」
コウの記憶の中の和木は、社会的な関わりを極力嫌うような人柄だった。
タイプは全然違うけど、やっぱり森と少し似ていた。
ここでもまた、アイは和木の部屋を観察して、和木の読んでいた本や趣向を探る。
驚いたのは勉強机の上には、中学のときのコウの写真があったことだ。
バスケのユニフォーム姿で二人で映った写真が、写真立てに飾られている。
コウはそれを手に取って、「おまえどんだけ俺好きだよ」と涙ぐんだ。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月5日
キャラって自然と育つものですね。