はははは(笑)
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
※
樫木のプロフィールに付け加えるとしたら、
樫木の家は高野山の神社らしい。
ツンツンに尖らせた硬い髪の毛からは全く想像がつかない、ご実家だった。
「陰陽師って知ってるよね?」
現代社会じゃ、実際にそんな物表に出て来るとすれば、
ドラマやアニメ、胡散臭いテレビ番組くらいのものだった。
「ちっちゃい時から俺、そう言うことを生業にしてきたんだ」
樫木は言った。
僕は眼鏡が、ずり落ちそうになるのを直しながら、
何の冗談かと汗を拭う。
「陰陽師って、あの呪術使って悪霊退散とかする、あの類のやつ?」
「専門は方位学と天文学による占術。退魔行なんかも習うけど、そんなのは現代社会じゃめっきり少なくなってるし、案件があったとしても秘密事項だ」
誰だ?
樫木を普通っていった僕!
全然普通じゃない。
「神主で陰陽師なの?」
バスケ好きの、ロードバイク好きの、
女の子大好きな今時の子じゃないの!?
樫木のイメージ、一番神社をイメージしにくくて、僕は悩んだ。
「生まれるとこって選べないやん。俺の親父は坊主だし、その家の長男として育ったから、小さいころから、そっちの教育受けて、高野山高校に最初進学したんだけどさ。ちょっと反発したくなっちまって、一人暮らししてインハイ目指すって決めたのよ」
死んだけどね、と樫木は軽く笑った。
「ごめんロードバイクとかバスケと、家業が全然結びつかない」
「それで言ったら、お前の親父がエロ系小説家ってのピンとこないのと同じだけど」
ああ、納得。
おっしゃる通り、子供って親選んで生まれてきてないもんね。
生まれ落ちる家庭環境なんて、ルーレットみたいなもんだから、
不公平なようで、宝くじ当てるような公平性もある。
どんな環境でも、順応できるもん勝ちだよな。
「で、本題なんだけど。森って、ほんと見えてないよな」
ごめん、眼鏡かけても視力0.5ないよ。
「眼鏡の度が合ってないのはわかってる」
和木と樫木が同時に顔を見合わせて、ぶんぶんと揃えて顔の前で手を振る。
「じゃなくてさ。クエストで結構森はひどい目に遭ってるよね」
「うん」
「でも全部自然現象だって思ってるよね?」
「そうだよ、運悪いなって思うけど」
僕の目の前で、二人がため息をつく。
「な、やっぱ天然で見えないんだって」
「あんなリアルに見えるものが見えない!?」
「だってクエストってそんな危なくないね、普通じゃんって初日からボケたこと言ってたし」
「ああ、な。その方が森らしくて幸せかもしれなくね?」
なんか疎外感がすごい。
「そこまで言ったら、とりあえず全部聞かせてくれる?」
モヤッとするし。
僕は問い直した。
言いにくそうに咳払いして、和木が言う。
「俺たちがこの世界に来て、お前はたぶん見えてないものが多い」
それって、何?
僕が首を捻ると、和木に代わって樫木が言った。
「この世界は呪術で溢れてる。日本の現代社会にいたときに、夢物語のように映画やアニメで語られてたもの、ここでは当たり前なんだ。呪術者がいて、精霊がいて、妖精やゴブリンがいる。もちろん人間もいて、神と言われる人もいる」
僕の嗜好が停止したのは言うまでもない。
「リーインリーズ伯爵は、すでに300年生きている。そしてキコアイン一族の総帥と言われる人は、800年生きているんだ。うちらの生きてきた寿命って、せいぜい、金銀で有名になった婆様でも100年とちょっとだろ?」
二人から聞かされた内容を整理するには、相当脳に皺を寄らせたと思う。使っていなかった部分の想像力を引き出し、新しい皺を作らなきゃ、僕には到底理解できない内容だった。
「異世界に来たって自覚あるから」
僕はやっとそれを口に出した。異世界に来たことを大前提として仮定したとき、全ては天の(神の)采配になる。
「僕は見えない?」
不可思議なことに盲目である自分を確かめる。
「うん。妖精も見えないし、僕たちがクエストで戦っている妖魔やゴブリン、そんなもの全部見えてなくて、ただ不運だって思ってる。現代の日本の社会にいたときみたいに」
樫木のクエストで賞金を得るって意味を僕はわかっていなかった。
単なる依頼を受けて、それをこなすってことぐらいにしか認識がなかった。
和木は「それでいいんじゃない」と言った。
「俺は見えるけど、それで森が森らしいなら、それが森の現実だから。
ーー悪くないと思う」
なんか僕だけ前のステージに置いて行かれた気分にはなったけど、
僕は科学者になりたい男だ。
「ごめん。事情はわかった。
でも僕、自分が目にして、自分が体験したことじゃないと認めない」
断言した。
思わず二人が拍手喝采する。
「科学は呪術を必ず凌駕する!」
二人は、ははははと笑いながら、「だといいけどな」と言った。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月4日
異世界転生したら、どんな感じ?
を追求したいです。