必要な知識
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
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鉄を生成するためには、高温を保つことができる炉をつくらなければならなかった。
僕たちはリーインリーズ伯爵に相談を持ち掛けた。
「この国に鉄がないわけではないのに、更に鉄を作り出すの?」
「ええ。この国の鉄って高価すぎるし、武器にしか使われていないの、ちょっと偏っていると思うんです」
僕は珍しく積極的に交渉した。
「自然界でそのまま金属の形を保っていられる、金属って銅とか金だけど、
産出量もあまり多くなさそうだし、この一族を更に豊かにするには、
鉄って絶対に生活に必要なんですよ」
「錬金術師はこの一族内にはいないわよ」
「構いません。僕作り方を知っているんで」
リーインリーズ伯爵は驚いたように目を見張った。
「料理人かと思ったら、あなた錬金術師なの?」
「そんなようなものです。でも財力がない」
力を借りたいのだと訴える。
「こいつ、ほんとにやりますよ」
既に僕よりも、リーインリーズ伯爵の信頼を勝ち取っている和木が、申し添えした。
「この一族では鉄鉱石が手に入るので、鉄を生成することが可能なんです」
僕は目力を強くして訴える。
眼鏡がキラリと光る。
もちろん原理しか知らなくて、作ってみたことはない。
でも妙に自信があった。
「いいだろう」
リーインリーズ伯爵は承諾した。
部屋に戻り、設計図を作成していると、それを和木が覗き込んできた。
「この世界に来て、ちょっと不思議に思うことがある」
和木の言おうとしていること、僕もわかった。
「高校生の俺たちが、こんなになんでもできると思うか?
俺、確かにこっちに来る前から植物の知識は豊富だったし、
料理に関しても、薬膳とかスパイスとかに興味持ってたよ。
でもこんなスラスラと記憶の中に蘇ってくるって、ちょっとした違和感を感じるんだ」
「同じだね、和木くん。僕もそう思う。
僕だって自分の部屋に、科学の本を大量に積み上げていたけど、
それの全部を暗記してたかっていったら、ちょっと違う。
そんなこと、イチ高校生に不可能だって思うんだ。」
ーーまるで本の知識を丸ごとインストールされてるみたいな、揺るぎのない記憶力!!
僕達は確信した。
やっぱりこれが、異世界転生して僕達に与えられたスキルなんだって。
現代人の知識だけが、スキルってちょっと頼りないけど、
生きていくには必要だった。
このスキルがなければ、ちょっと詳しいぐらいで、
何もないこの世界で、物を作り出すなんてこと出来なかったに違いない。
「なんかさ、もったいないことしてたよね」
「ああ」
「僕達の世界って便利すぎて、なんでも揃ってるから、
一から物を作り出すってこと、あんまりなかったよね?」
「そうだな」
「もし現代でも、ある日文明って一気に滅びてしまったら、
同じことに困ったりするよね。
たぶん火を起こすことから、頑張るんだろうね。
なんでそういう、本当に生きていくのに必要な授業、失くなったのかな?」
災害なんて起こらないとか、たかくくってたんじゃないかな?
あまりにも日常が、平和すぎて。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月2日