心理学者ユング
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ちなみに、偽りの神々シリーズにリンクします。
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退院した弟のコウを連れて、黒田アイは岩出市の自宅に戻っていた。
姉弟の両親は、大阪と東京にマンションを持っていて、
和歌山の自宅に帰るのは週に一度あるかないかだ。
コウが無事退院したので、また二人だけの生活がはじまったのだが、
弟のコウはチームメイトで友人の死を知ってから、ふさぎ込んでいる。
そりゃ自分に置き換えても落ち込むから、無理ないと思う。
だって毎日一緒に練習してきたチームメイトや先輩が死んでしまったんだもん。
ショックは相当なものだと思う。
それにインターハイ。
バスケでインターハイに行くのが弟の夢だった。
そのためにどれだけ練習していたか、身近でみていたアイは、
知っている。
岩出の自宅は庭が広くて、父親がコウのためにバスケットゴールを設置した。
スリーオンスリーくらいはできるくらいの広さがあり、
自宅に和木が遊びに来たこともある。
和木は小学時代からの友人で、コウがバスケでインターハイを目指すと夢を口にして、和木をその道に引っ張り込んだのだ。
その和木が死亡。そして同じチームメイトの森と樫木、三年生の先輩2人が死亡。
その他重軽症者数名。
インターハイどころの騒ぎじゃなかった。
コウは縁側にすわって、バスケットボールを膝に置いたまま、
ぼんやりと庭を眺めていた。
「いつまでも落ち込んでる場合じゃないよ」
アイは弟の肩を抱いて、隣に座った。
「――姉貴、病院で言ってたよね? やつらを救えるの、僕だけだって」
ほんとに?
コウの視線は救いを求めるようだ。
まだ目の周りが赤くて痛々しい。
「うん。私に考えがある」
インターハイ予選に出るための合宿で、
アイは、弟のコウを含めて、1年生チームメイトの和木、森、樫木をキャプチャした。
彼らの生きてきた15、16年分の歴史、性格、身体能力、癖に至るまで、
ビックデータを作り、人工知能として生かしてある。
もっとデータを集めれば、彼らの肉体は滅んでも、
人工知能として彼らは再生する。
詭弁だと思われるかもしれない。
死んでしまった人は戻らない。
人の概念はきっとそうだ。
けれど有名な心理学者のユングは、未来の可能性を示していた。
彼は見たこともない国の曼陀羅を、夢の中で見て、
それを書き写したというのだ。
人の意識は、肉体ではない部分、つまり魂でつながっている。
アイはこの仮説を信じていた。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年10月19日