辛い世の中だけど。
気まぐれに投稿しています。
ちなみに。
転生後の世界が「偽理の神々シリーズ」になり、
このメンバー達は、要所要所に登場します。
お付き合いよろしくお願いします。
※
長い髪の美少女にお願いされちゃったら、
正直僕なんてイチコロだし、樫木はニコロだよ。
誘拐でもなんでもいいから、皆で手を繋いで逃げようよ。
彼女もそれを望んでいる!
そう思って可愛い、リオナって女子を連れて来ちゃった僕達だけど、
人食い人種じゃないかだけは確かめたかった。
「村人は、直接巫女の体を食べたりしません」
リオナは人肉を切って血抜きをする現場を見た僕に、
真っ向から答えて、そう言った。
食べはしないと言ったけれど、
その後、彼女が言った言葉も結構衝撃的だった。
「あれは力がないと判断された巫女の末路です」
結局殺されちゃったわけだ。
「貴族への供物を献上するのが村の掟ですが、
供物というだけだって、体を供物ーー九つの部位に分けて、
食べやすいようにして、神に捧げるのがこの村の習わしです」
頭は奇数ですが、その他の四肢は偶数に分けられます。
やっぱり13日に金曜日だ。
僕は震え上がった。
「なんで、人が人をそんな風にするの?
貴族って、いったい何?」
「あなた達、貴族も知らないのですか?」
僕の質問はリオナにとっては不思議そうだ。
「不敬ですね」と彼女は言った。
不敬って?
「俺ら貴族の親兄弟違うんだけど」
ほら、同音異義語を勘違いしてるだろ!
父兄じゃなく、不敬って言っているんだろうけど、
僕らの生活からは、かけ離れていた。
僕たちのやりとりを総合的に判断した樫木が、
拉致が開かないとばかりに要点をまとめた。
「君は巫女で、力がなくなると貴族に供物にされるために、
九つに分断されて、命を奪われる村にいた。
そこから逃げたくて、俺たちと一緒に来たってこと?」
「そう。助けて」
リオナは大きな瞳を潤ませた。
樫木のハイテンションを上からペシャンコにするように、
和木が冷たく言った。
「それって俺たちが君を助けるメリットって何?
わかる? 君を助けて、なんかいいことあるのって聞いてるんだけど?
君の言うことを100パーセント信じたとしてって前提だけどさ、
なんか君を連れていく利点って、あるの?」
ずいっと、上半身を折って、リオナの顔を覗き込む。
やっぱ、和木こえー。
女の子に容赦ねー。
心の中で僕だってちょっとはそう思ったけど、
そんなこと女の子相手に聞けないもんな。
「世の中って、ボケてはいるけど、等価交換が原則なんだよ。
お前が俺達と来るってこと望むなら、その対価、
なんでもいいから支払やがれ」
和木が言った。
現代社会では、的を得た考え方だった。
僕たちは、社会の枠にはまって学生として勉強する。
だから仕事はまだ、義務教育期間でしなくても許される。
でも大人になったら、仕事をして、
その行動全てが、お金という名の給料に変わるのだ。
僕は前に、財布を落とした。
親切な同級生が財布を拾ってくれて、
「ありがとう! よかった」という僕の前で、
三つ折りになったアニメ柄の財布を僕の前にチラつかせた。
「で、いくらくれるの?」
親切に拾ってくれてありがとう、「うん、よかったね」
じゃ、ないの?
その時、他のクラスで見たことがない同級生は、
普通は半分だよな、と嬉しそうに言った。
僕たちの社会は、規律正しいけど怖い。
親切心だけで動く人の割合って、どんなもんなんだろ?
僕はその時に思ったんだ。
「和木くん! 事情だけ、ーー先に事情だけでも
聞いてあげよう」
甘ちゃんの僕は言った。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年10月18日