黄金比率かよっ
気ままに投稿しています。
小説ですが、エッセイみたいに書いています。
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痛い足を引きずりながら、一番最後に部室に戻ると、一年生が制服に着替えていた。
シャワー室から次々と朝練終わりの生徒達が飛び出してくる。
この学校、運動部のレベルが高く、シャワー室があるところが素晴らしい。
おかげさまで、汗でグショグショのまま授業に出なくていい。
そんな学校そうそうない。
公立ではなく、私学の特権だ。
授業料がめちゃくちゃ高いらしいけどね。
僕もひとっ風呂ならぬ、ひとシャワー浴びようと、服を脱いだ。
そこに一年生モンスター二人が、シャワーを浴びて出てきやがった。
生まれたままの姿を見比べてしまい、
僕は「ひぃー」と奇声を発した。
思わずタオルで自分の体を隠し、内股になって退避した。
一矢纏わぬ姿は、黄金比率の賜物だった。
僕が女子なら、そっこー悩殺されると思うんだけど。
男だからさ。
言い表せない敗北感。
充分装備をしてスキルを上げ、それでも一瞬でラスボスにHP奪われちまうような無残さ。
ほんと、なんなんだよ、こいつらって。
黒田コウ、ーー親父がIT会社の代表取締役で、IT系の専門学校も経営しているらしい御曹司。
相方の和木ヨースケ、ーー有名な流派の華道家元で、制服以外はいつも着物着て暮らしているような浮世離れした男。
オーラが違いすぎないか!?
他の男子達のシャワーシーンなんて彼らに比べればイモ洗いみたいなもんだ。
その他一本の、身長だけが取り柄の、長芋の僕は打ちひしがれる。
しかも黒田コウ、一個年上のねーちゃん、アイちゃんだっけ。
好みのタイプ。可愛くて羨ましい。
「朝練、終わり? お疲れさま」
「足痛めたんだって? 大丈夫か?」
ひぃ、近寄らないでくれ。
彼らがキラキラしすぎていて、常にモンハンの閃光攻撃を受けている気分だ。
「平気だよ……」
僕は壁側ににじり寄って逃げる。
敵は勝手に自分を仲間認識して、軽く声をかけてくるが、勘弁してくれ。
「さっさと足、治しておいてくれよ」
「インターハイ行くの、一年じゃ俺ら三人らしいから」
黒田コウの言葉を聞いて、その瞬間、一気に視界がバグった。
縮み上がるって、こんなことを言うのかな。
『インターハイ行くの、一年じゃ俺ら三人らしいから』
一人目、黒田コウ、二人目、和木ヨースケ。
人差し指で数えて、三人目っていったい!?
僕ーー!?
パニックになって、迂闊なことに僕は持っていたタオルを取り落とした。
「おまえ、筋肉ねぇー」
和木ヨースケは容赦なく言った。
「これからだよね、森くん」
黒田コウの笑顔が眩しい。
ほんの二週間前に入部したばかり。
それから、バスケのルールを覚えたのだって、高校に入ってからなんだよ。
(アニメでの予備知識はさておき)
それがいきなりインターハイって。
どんなシチュエーション?
あまりにびっくりしすぎて、
イッコウの、「どんだけー」が脳天に響く。
「む、む、む、む、無理です……! 僕なんて本当に……」
「俺もそう思う」
和木が即答した。
ぐさっ!
言葉のキレ味に傷付いてしまう。
でも、彼の言う通りだよ。
無理なもんは無理だから、インターハイなんて連れて行かないで。
「でもさ、出場選手決めるの先輩達だから、まぁ頑張って」
和木が言った。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年9月7日