特技を順番に
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
※
僕たちは裸で魚を食らった。
川魚って生臭いといった記憶しかなくて、僕は恐々口にしたのだが、
和木コック長は調味料を持っていた。
「なんでインターハイに調味料持ってきてんの!?」
僕が聞くと、
「まずい飯は食えないから、調合用に色々持ってきた」
と、こだわりたっぷりに返答した。
「和木のおかげて美味い飯が食えるな」
樫木が、かかかっと笑っている。
本当に頭が下がる。
でも調味料も、底をつく時が来るだろう?
ってことは塩はナトリウムNa。
その補充は僕の役割。
味付けは和木に任せても、
彼の調味料が尽きないように、僕が考えようという気になった。
樫木は、魚を絶妙な焼き加減で差し出してきて、
この二人のおかげで、久しぶりに美味しいタンパク質にありついた。
「川沿い進んでいる限り、水と食料は調達できるかもな」
和木の言葉に、僕たちはうなづいた。
川沿い行くなら、もしかしたらそのうち人にも出会うかもしれない。
ちょっと期待してしまう。
「ここが異世界なんだっていうなら、もうちょっと女っけあってもいいのにな」
「だな」
僕の言葉に、樫木が同調する。
「大抵の異世界ものって、主人公モテるしさ、
ほとんどの可愛い女の子が、主人公に夢中になってくれるのに、
僕たち不遇だよな」
「異世界転生知らないけど、男三人、女っ気なし」
そのうち滅びるパターンのギルドだった。
ーーいや、ギルドみたいに依頼も受けてないしな、まだ。
お互いの特技だけ確認し合った。
バスケには必要なかった特技。
和木の紹介は僕がしてやった。
「一言で言うと、極道和木・ヨースケ」
「おまえなぁ」
リアルな学園よりも自由に、自分たちは自己紹介を続けられた。
「刃物マニアだ」
和木は言った。
「極道って、まじもん?」
樫木が聞いて、和木は首肯した。
「うちの家の壁は五メートルで四方を囲まれてるよ。岩出方面に行くの国道沿い左手」
ああ。
あの不思議な豪邸だな。
僕と樫木は顔を見合わせて納得した。
情報が異世界じゃなきゃ、レアすぎるよ。
壁の上に、なんか鉄格子あったような、なかったような。
「樫木アキ。俺はソロキャンププレーヤー、ーーソロキャンパーって言うんだけど、
それが趣味だ。バスケの他に好きなのは、ロードバイク。
インターハイ、バスケで行くかロードバイクで行くか悩んだけど、
和歌山じゃバスケしかなかったから」
樫木は最初入学した高校バスケ部に嫌気がさして、うちのバスケ部を目当てに転入してきたらしい。
「うちってそんな強いチームじゃなかったよね?」
僕がきくと、
「いや、黒田コウと和木ヨースケがこの学校に入学したって、後で知ったから」
と、インターハイにかける情熱を語った。
「で、おまえは?」
二人の視線が一心に僕に注がれた。
「僕は君達みたいに、特にスペックないよ。
趣味と特技は、科学。
あの高額授業料を払えているのだって、
たまたま親父が『○○楽園』とか、濡れ場の多い小説が映画化したからで』
「えっ!? お前あの原作者の息子?」
「すげーじゃん」
僕は胸の前で全力で手を振った。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年10月9日