グミは腹持ちいいはずだ!
気ままに投稿しています。
軽く読んで、お付き合いください。
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文明ってものを失ったら、人間ほど無力な生き物ってないんじゃないだろうか。
満点の星と赤土の大地を、僕たちはひたすら歩きつづけた。
でも樫木の体が、僕の体で震え出したので、
僕は怖くなって足を止めた。
「ちょっと休もう」
声がうわずってしまったが、
逆にそれが僕の緊張感を伝えてくれて、和木は了承してくれた。
僕たちは大きな岩を探して、岩に背中を預けるようにして休む事にした。
「樫木くんの熱が高い。それにたくさん出血したから、ちょっとショック状態になってる」
「止血はしたけど、やばいよな」
僕たちは医術の心得なんてない。
ただ不安だった。
「ここが日本じゃなかったら、救助なんて来ないのかな?」
僕たちは喉が渇いて、サボテンのようにトゲトゲの肉厚な植物を切って、
その汁を啜っていた。
「サボテンとか、ほんとここ何処って感じだよね?」
「ああ」
よく喋る僕とは対照的に、和木は黙って何かを考えていた。
「夜が明けたら、一旦バスに戻ろうと思う」
そして決意したように言った。
「ーーでもっ、もう何時間も歩いてきたよ。それに……」
狼みたいなものに、みんなが食いちぎられていたら。
そんなの目にしたら、耐えられない!!!
「ああ、わかってるよ。お前たちは、ここで待ってたらいい。俺が行って見てくるから」
和木の男気には感服する。
「だ、だ、だ、ダメだよ。そんな一人で」
危ないし。
和木がいないと僕不安だし。
不足の事態が起こった時、人間の本質って出てくるよな。
やっぱ僕、弱腰だ。
怖いことは嫌だし、樫木を抱えたまま和木と離れるのは嫌だった。
「おまえ、俺のこと信じられる?」
和木は僕に唐突に聞いてきた。
僕はぶんぶん、と首を縦に振る。
「当たり前だよ。でなかったらきっと、バスから一歩だって動けなかった」
「じゃあさ、もう一回信じろよ。バスの中に、薬とか積んでたはずだから、とってこないとな。樫木このままにできないだろ?」
そう言って、和木は刀の使い方を僕に教えると言った。
「だめだよ、和木くんの方が危険なんだから。この武器手放さないで!」
一緒に行きたかったけれど、これ以上樫木を動かせなかった。
それに僕は、あの地獄のようなバスにもう一度戻ろうなんて、考えることもできなかった。
「ごめん、信じて待つけど、せめて刀は持って行かないと」
ほんと、情けなくて、頼りなくて、君ばかり頼ってごめん!
「いや。もし動けない樫木とお前が襲われたら、こいつで戦わないといけない」
和木は僕の手に刀を持たせた。
「俺は鞘だけ持っていくよ。こっちの強度もかなりのモンだから、何かあったらこれで殴る」
和木の決意が男らしくて、すごくつらい。
「怖くないの? 怖い、よね?」
「あほ」
和木に怒られた。
「お前みたいに素直なやつ初めて」
「怖いこと、全部押し付けてごめん!」
ははは、と和木が笑った。
「お前より修羅場には慣れてるんだって」
手足が冷えてきて、僕は樫木を抱き抱えた。
あ、そういえば。
僕はお菓子好きなオタクやろうだ。
ポケットの中にはいつもアニキャラのグミを入れていた。
「ここにいるの黒田じゃなくてごめん」
役立たずで、君の気に入ってるやつでなくてごめん。
でもさ、そういえば僕のリュックの中身、お菓子だらけだった。
僕はポケットの中からグミを取り出して、和木に差し出した。
「でも、グミ持ってたよ」
和木はそれを受け取って、袋を開けた。
「今日の夕飯だな」
軽く笑った。
「それに僕の目立つリュック」
300円ガチャで集めたキャラクターをいっぱい貼ってある水色のリュック。
「もしバスから持ち帰れる状況なら、中身、全部お菓子だから」
頭をかいて、僕は恥ずかしそうに和木に言った。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年10月4日