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オタクの青春は異世界転生  作者: 一桃 亜季
30/144

ここは何処!?

気ままに投稿しています。

お付き合いよろしくお願いします。

        ※


「この世界、ちょっとおかしくないか?」

 ボソッと和木がつぶやいた。


 逃げおおせたものの、僕たちは疲れ果てていた。

 無我夢中で逃げて、数時間前に進んだのに、車道に出なかった。

 そして、車も人にも出くわさない。


 そう。灯りという灯りがないのだ。

 唯一道を照らすのは、月明かりだけ。

 そして異様なまでに美しく輝く、満点の星。


 和歌山の山中の、美里展望台に遊びに行った時のことを思い出した。

 辺りに民家も灯りもないから、夜空はより輝いていた。

 それくらい山深いところを走っていただろうか?


「違うよ」

 僕の疑問に答えるように、和木は言った。

「俺たちは高速道路が見えている山道で事故に遭ったはずだ。なのに、灯りひとつ見えないなんて、何かおかしい。」

 和木の表情は険しかった。

「それに、もっと高低のあるところのつづら折りの坂道で事故ったはずだ。それなのに走ってきた範囲で、俺たちが来た道は平坦だった」

「そうだよね」


 疑問に思いながらも、僕が口に出さなかったことを、和木が代弁した。

 確かにおかしいと思った。

 日本の山は、少なくとも僕が知る山は、もっと湿気を帯びていた。

 それなのにこの赤土の、渇いた土壌はなんだろう。

 生い茂る木々はなく、乾燥した地面に背丈ほどもない植物が少し生えているだけだ。


「森、疲れただろ? 樫木運ぶの代わるよ」

「ううん。大丈夫、まだ行ける」

 和木の方が疲弊しているように見えた。

「黒田も、うまく逃げたかなーー?」

 放って行く決断をしたのも和木だったが、人一倍心配しているようだ。


「もうちょっと身を隠せるようなところに出たら、安心して足を休められるんだけどね」

 僕は苦笑した。

「あと、黒田くんは僕なんかよりよっぽど運動神経がいいから。事故の時もきっと受け身を取ってるよね」

 気休めかもしれないけれど、肩を落とす和木に、何か言葉をかけたかった。


 僕が背中に背負っている樫木は燃えるように熱かった。

 ろくな手当ができていないから、体に熱を持っていて、ぐったりしている。

 なんとかしないといけないけれど、食べ物どころか、水すらない。

 携帯は相変わらず圏外だった。


「さっきのあれさ、犬じゃないよ」

 少し自分の先を歩いている和木が言った。

 ジャージの袖が破れている。

「噛まれたの!?」

「いや、ちょっと引っかかれただけ」

 大したことないと和木は言った。


「夜行性の群れをなす、狼に近い動物だったと思う。お前がいう通り、犬のサイズじゃない」

「狼って!?」

 日本にいたっけ!?

「だから、ここは何処だって考えずにいられない」


 今頃だったら本当は、前泊する旅館について、風呂にでも浸かっていた頃だよな。

 人生って、ほんと何が起こるのかわからない。

 僕みたいな臆病モノにでも、平等に危険って訪れるんだ。


「和木のおかげで助かった」

 素直に礼を言うなんて、日常なら恥ずかしかったけれど、

この日は日常を逸脱していた。

「ありがとう」

 僕は素直に礼を言った。


「ちゃんと助かってから言えよ」

 甘いやつだと、和木に皮肉を言われた。

 でもきっと、彼がいなかったら、僕はあのバスの中から一歩だって外に出ることはできなかった。

 そして今頃、赤ずきんちゃんさながらに腹の中だ。


 ぐるぅぅぅ〜。

 緊張感が過ぎると、腹が減ってきていることに気がついた。

「今夜は調理班、食材手に入らないですね」

 僕は苦笑いして、腹を押さえた。

「そうだな」

 和木も軽く笑った。

「オタクの青春は異世界転生」:2020年10月3日

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