ここは何処!?
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
※
「この世界、ちょっとおかしくないか?」
ボソッと和木がつぶやいた。
逃げおおせたものの、僕たちは疲れ果てていた。
無我夢中で逃げて、数時間前に進んだのに、車道に出なかった。
そして、車も人にも出くわさない。
そう。灯りという灯りがないのだ。
唯一道を照らすのは、月明かりだけ。
そして異様なまでに美しく輝く、満点の星。
和歌山の山中の、美里展望台に遊びに行った時のことを思い出した。
辺りに民家も灯りもないから、夜空はより輝いていた。
それくらい山深いところを走っていただろうか?
「違うよ」
僕の疑問に答えるように、和木は言った。
「俺たちは高速道路が見えている山道で事故に遭ったはずだ。なのに、灯りひとつ見えないなんて、何かおかしい。」
和木の表情は険しかった。
「それに、もっと高低のあるところのつづら折りの坂道で事故ったはずだ。それなのに走ってきた範囲で、俺たちが来た道は平坦だった」
「そうだよね」
疑問に思いながらも、僕が口に出さなかったことを、和木が代弁した。
確かにおかしいと思った。
日本の山は、少なくとも僕が知る山は、もっと湿気を帯びていた。
それなのにこの赤土の、渇いた土壌はなんだろう。
生い茂る木々はなく、乾燥した地面に背丈ほどもない植物が少し生えているだけだ。
「森、疲れただろ? 樫木運ぶの代わるよ」
「ううん。大丈夫、まだ行ける」
和木の方が疲弊しているように見えた。
「黒田も、うまく逃げたかなーー?」
放って行く決断をしたのも和木だったが、人一倍心配しているようだ。
「もうちょっと身を隠せるようなところに出たら、安心して足を休められるんだけどね」
僕は苦笑した。
「あと、黒田くんは僕なんかよりよっぽど運動神経がいいから。事故の時もきっと受け身を取ってるよね」
気休めかもしれないけれど、肩を落とす和木に、何か言葉をかけたかった。
僕が背中に背負っている樫木は燃えるように熱かった。
ろくな手当ができていないから、体に熱を持っていて、ぐったりしている。
なんとかしないといけないけれど、食べ物どころか、水すらない。
携帯は相変わらず圏外だった。
「さっきのあれさ、犬じゃないよ」
少し自分の先を歩いている和木が言った。
ジャージの袖が破れている。
「噛まれたの!?」
「いや、ちょっと引っかかれただけ」
大したことないと和木は言った。
「夜行性の群れをなす、狼に近い動物だったと思う。お前がいう通り、犬のサイズじゃない」
「狼って!?」
日本にいたっけ!?
「だから、ここは何処だって考えずにいられない」
今頃だったら本当は、前泊する旅館について、風呂にでも浸かっていた頃だよな。
人生って、ほんと何が起こるのかわからない。
僕みたいな臆病モノにでも、平等に危険って訪れるんだ。
「和木のおかげで助かった」
素直に礼を言うなんて、日常なら恥ずかしかったけれど、
この日は日常を逸脱していた。
「ありがとう」
僕は素直に礼を言った。
「ちゃんと助かってから言えよ」
甘いやつだと、和木に皮肉を言われた。
でもきっと、彼がいなかったら、僕はあのバスの中から一歩だって外に出ることはできなかった。
そして今頃、赤ずきんちゃんさながらに腹の中だ。
ぐるぅぅぅ〜。
緊張感が過ぎると、腹が減ってきていることに気がついた。
「今夜は調理班、食材手に入らないですね」
僕は苦笑いして、腹を押さえた。
「そうだな」
和木も軽く笑った。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年10月3日