無事に。
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
※
どういう意味か、僕にはイマイチわからないけれど、
和木は黒田が好きだと言った。
その黒田を見捨ててでも、この難局を乗り越えていこうと言っている。
僕以上に、長い付き合いをしてきた黒田を切り捨ててでも逃げると言う決断をした、
和木は、つらかったはずだ。
和木は戦うと言った。
足手まといは、たぶん僕と、怪我をした樫木なのだ。
ここに黒田がいてくれたら、もっと和木に力を与えたのかも知れなかった。
けれど現実は頼りない僕と、足を怪我して歩けない樫木。
和木は刃渡り1メートル以上ある日本刀を抜いた。
闇夜に光る刃物は、うちの家で見る刀の何よりも美しかった。
「お前たちは、逃げることを最優先に考えろ」
僕と同じぐらい、日本人離れした身長で、僕以上の運動神経がある和木が、
広い肩幅で日本刀を構えると、圧倒的にかっこよくて、頼り甲斐があって、その長さは気にならなかった。
「後方の割れた窓から出たら、一気に逃げろ。俺が、お前たちに犬コロが追いつかないようにしてやるから」
かかこいいよ、和木くん。
そんなかっこよくて、いいの? 和木くん。
僕は申し訳なく思う気持ちのまま、神妙にうなづいた。
僕は歩けない樫木を運ぶ。
どこまで運べば安全なのか?
今はちょっとわからないけど、とにかく逃げる。
「行け!」
和木の言葉で、僕は走り出した。
この深い森、硬い土の大地はいったいどこだ?
自分たちが事故に巻き込まれる前の景色ではないようだった。
学生の時に踏み慣れた運動場のように硬い大地は、草木も生えないほど荒れているのに、周辺に影を作る植物は見たこともないほど生い茂っている。
ここは本当に日本なのかーー!?
和木が後方で、盾になっているのを傍目に見た。
飛び出した自分たち、動く獲物を狩ろうとする獣を、和木は日本刀で両断していた。
月灯りに閃光だけが光、状況がわからない。
そしてそれを気にしている余裕はなかった。
「樫木!」
貧血なのか意識も朦朧とする樫木を背中に抱えて、
僕は死なせない、と誓うしかなかった。
彼を救うことを考えなければ、
たぶん自分だけでこの状況なら、恐怖にたちすくんで、足なんて動かなかった。
かっこいい和木も、きっとそんなに違いはない。
僕はわかっていた。
黒田を探すことを断念しても、
僕と樫木を逃すことを選択した和木は、本当にすごいやつだ。
ちゃんと指示を出して、自分が盾と槍になろうとしている、すごいやつなんだ!
僕も僕の役割を果たすよ。
最後に一緒にカレーを作った時のように、
君の指示通りに動いて見せる。
僕の体も、インターハイに出るための訓練で、多少は無理が効くようになっていた。
和木の隙をぬって食らいついてくる犬コロもどきを、僕はフェイントで身をかわした。
和木が派手に切りつけてくれているおかげで、追ってくる犬コロは少ない。
そうだよな。
バスの中に、あれだけ餌があるんだから、僕達に固執する奴らは単に即時反応しただけだ。
和木が逃げようと言った判断は正しい。
こちらを追いかけてくる数頭の命を奪い、こちらも和木が牙を向けば、より簡単に腹に入れることができる獲物を得ようとするはずだった。
僕達は逃げ切った。
けれど捨ててきたものの大きさに、表情は無くなってしまう。
でも僕達は、生きていた。
「オタクの青春は異世界転生」2020年10月2日