違法所持
気ままに投稿しています。
休憩時間にサラッと書くのがマイブームです。
誤字脱字すみません。
お付き合いよろしくお願いします。
※
逃げるって言ったって。
僕は戸惑った。
「バスの中にまだ生きてる人がいるかもしれない。それに黒田君だって、まだ見つかってないよ」
放っておくつもりなの?
「息のある奴を探している時間はない」
残酷な一言だった。
「でもっ! 黒田君は……?」
「バス内に見つけられなかったんだろ? もしかすると先に外に逃げたかもしれない」
「だって外には野犬がいっぱいで、逃げるなんて無理。黒田君を探さないと。ーーそれに先輩達も」
心臓がどくどく言って、こめかみにまでその音がじくじくと伝わってきている。
和木は見捨てるつもりなんだろうか?
「森、冷静に考えろ。お前の話の通りなら、そいつらじきに車内にも餌がないかを物色に来るはずだ」
低い声で説明する。
「そうなったら俺達だって餌食だよ。ーーで、この状況で動けないのは誰だ?」
あっーー。
樫木君は足を痛めていた。
見捨てられない。
「この状況で、後一人でも怪我人を背負って逃げることなんて、お前できるか?」
僕は首を振った。
そうだ、和木の言う通りだった。
僕たちは樫木君を背負ってでも守らなければならない。
「俺が戦ってやるよ。お前は樫木を背負って全速力で逃げろ」
戦う?
いったいどうやって!?
僕の疑問に答えるように、和木は袋に入った長い棒のようなものを取り出した。
あ、これ初日に着物で合宿に来た時にも持ってたものだ。
着物に目が取られて、長い棒には着目しなかったが、視界の端に入っていた。
「これ、何?」
「お守り。ーーでも今は戦闘道具かな」
和木が袋から取り出した。
それは、日本刀。
「何これ? 本物!?」
母の趣味でうちにも、たくさん違法所持してるけど、和木もそんな趣味が!?
あ、違う。
和木の家は、そういう家だった。
本当に護身用に持ち歩いていたのだろうか?
「こう言う場面に出くわすなら、拳銃の方がよかったな」
いやいや。
どちらも物騒です。
「でも戦えるんだね」
「たぶんね」
和木が頼もしく見えて、僕は僕の役割を果たそうと思った。
樫木君が小さくてよかった。
僕は彼を背負って逃げ切って見せる!
「オタクの青春は異世界転生」:2020年10月1日