無理ゲーだって!
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
※
樫木の足は肉が離れ、骨が見えていたが、幸い骨折はしていなかった。
「痛いよね? ーー痛いよねこれ」
目を背けたくなるような大怪我だ。
「出血がひどい、布を切り裂いて太ももの付け根を縛ろう」
「わかった!」
和木に指示てしてもらえると、素早く動けた。
こんなところで調理班でアシスト役をしていたことが活きている。
「なぁ、黒田はどこだ?」
樫木に言われて、僕はハッとした。
会話できているのは、僕達三人だけだった。
先輩達も、気を失っているだけならいいけど。
むせ返るような血の匂い。
嫌な予感しかしなかった。
「黒田くん! 黒田くんどこ? 返事して!!」
和木が樫木の手当てをしているうちに、僕は黒田の姿を探した。
真っ暗で、携帯のライトだけじゃ探しにくいけれど、
座席は僕たちとそう離れていなかった。
立ち上がろうとして、ふらついてしまう。
目がチカチカした。
「森、お前も頭から血出てる」
和木に言われて、僕も額から血を流していることを知る。
そうか、貧血を起こそうとしてるんだ。
でもーー。
「黒田くん、どこ!?」
泣きそうな、祈るような気持ちで、探しにいく。
さっき抱き起こそうとした先輩の首が不自然に曲がっていたのを思い出して、
身が縮み上がった。
黒田のいたあたりを確認するが、座席には姿がなかった。
窓が割れて、何人かが外に放り出されるような感じになっている。
まさか黒田も外に!?
絶望的な気分になる。
僕は横倒しになったバスの壁の部分を這うようにして、
窓側に近づいた。
「いたっ!」
ガラスの欠片が飛び散っていて、手をついて進んだら、痛みに跳び上がった。
そろそろと外を確認する。
そして信じられないものを目にしてしまった。
いくつもの光る金色の瞳。
5匹、いや6、7匹はいる。
大きな犬? 野犬?
もっと大きい生き物が、自分たちのバスを囲んでいる。
1匹が咥えている肉片を見て、僕は目を見開いた。
あれって、人間の腕!?
咥えられた肉片の先に、腕時計と指先が見えた。
「ひっ」
小さく声をあげて、僕はバスの中に後退した。
人を食ってるのか?
僕たちを、食ってるのか!?
恐ろしくてちょっとチビった。
物音を立てないようにして、和木の横に戻る。
「ーー和木くん、事態は最悪」
ごくんと息を飲んで、僕は和木の耳元に囁いた。
「野犬かな? 犬にしてはもっとデカイのに取り囲まれてる」
声を聞かれたら、今にも飛びかかってきそうに思った。
奴らは、外に飛び出した人達から、食事していた。
そして少しづつ、中の人の肉も狙うために、様子を伺っているようだった。
僕が状況を自分なりに分析して伝えると、
和木が目付きを鋭くした。
「逃げよう」
和木が言った。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年9月30日