救助は!?
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気がつくとそこは空気が違った。
横転したバスの中、バスケ部員全員が真っ暗な中でうめいていた。
「いてててっ」
頭に手をやると、髪の毛がぬるっとした手触りに濡れている。
起きあがろうと手をついたが、生き物のようだ。
人の体が重なり合っている?
バスで目を覚ました時、僕は自分が死んだことに気づいていなかった。
何が起こったのかわからなくて、体が痛くて、パニックになった。
「和木くん、黒田くん、どこ?」
僕はチームメンバーの名前を一人づつ読んでいった。
事故に遭ったんだ。
インターハイに向かうバスの中、突然バスが無理な方向へおおきく傾いた。
事故に遭ったのは夜ではなくて、日中。
それなのになんで今、こんなにも暗い!?
救助されずに、そのまま放置されてしまったのだろうか。
不安になった。
自分が手をついて起きあがろうとした時に、下敷きになっているのは誰だろう。
そうだスマホ。
ポケットの中から取り出した。
ぽうっと僕のまわりだけが明るくなったが、
画面上に表示されている文字は圏外。
僕はライトをオンにして周囲を確認した。
地獄絵図ってのを昔見たことがあった。
でも人の体が無造作に積み重なって、
割れた窓ガラスの破片が刺さっていて、血だらけの様子は、
スマホの薄灯に照らされて、余計に不気味だった。
震えあがっった僕は、声も出せない。
スマホの画面にも赤い血がついている。
僕の血だろうか!?
「誰かっ!」
誰か返事して!
こんな惨状なのに、救助が来ていないなんて信じられなかった。
むぎゅ。
僕の隣には、3年生の先輩が座っていたはずだ。
真っ黒に日焼けした逞しい肌に白い歯が印象的な好青年だった。
「先輩!」
多分彼だと思って、スマホの明かりを照らしてみる。
「うわぁぁぁぁ!」
先輩の顔を確認すると、白目を剥いていた。
不自然な方向に首が折れ曲がっている。
死んでいるーー!?
変な汗が噴き出してきて、僕はへたり込んだ。
「誰かっ、返事して!」
死人を初めてみた僕は、動揺する。
知っている先輩だった人が、もう動かなくなって、少し冷たい。
「うわぁぁあ、うわぁぁ!!」
死んでいるのだと理解しても、嘘だろと言う思いが交錯して、
彼の腕を持って振り回してしまう。
「大変だ、先輩が!」
震えるまま声を出した僕は、多分正常じゃなかったと思う。
「しっかりしろ森!」
声をかけられるまで、狂ったように叫んでいた。
「森!!」
僕は振り返った。
懐かしい、知っている声!
「和木くん! 和木くん!和木くん!?」
何度も連呼して、千切れるぐらい首を振って、彼の姿を探した。
よかった生きてるんだ。
生きててくれた!
和木くん。
「森おまえ、こっち来れるか? 樫木がちょっと大変で」
樫木くんもいるの!?
「うん、すぐ行くよ」
二人がいてくれるだけで、僕は泣きそうになって喜んだ。
「ちょっと待って、すぐそっち行くから」
僕は先輩の動かなくなった重い体を脇によけた。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年9月29日