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オタクの青春は異世界転生  作者: 一桃 亜季
20/144

王様の耳はロバの耳だろうが、そうでなかろうが。

気ままに投稿しています。

完全な異世界転生ものです。


まだ転生していませんが、お付き合いよろしくお願いします。

        ※


 僕の中でオオカミで決定した和木君は、調理班を経験して少し、怖くないオオカミになった。


 オオカミだって話せばわかる。

 僕の亀ペースを理解してくれる。


 そう思うと部活中も、さほど彼がいても緊張しなくなった。


 でも僕は亀なんだよ。

 相変わらず筋力が足らなくて、合宿中の毎朝のランニングで足が痛む。


 ドクターストップかかってたっけ!?

 骨と骨繋ぐ僕の軟骨、悲鳴あげてるんだっけ。


 それでも僕は走っていた。


 先頭集団をはるか遠くに見ながら、息をぜいぜいさせながら、それでも足を引きずるようにして走っていた。


「無理しないで。自分のペース守って」

 黒田が僕の横に少し滞在し、そして風のように前を走っていた。


 あ。

 先頭集団に一周差をつけられた。


 がっくりする僕の隣に、次に並んだ長身の和木がぼそっとつぶやく。


「あんたさ、なんで思ってること言えねーの? 膝壊してるなら言えば? 部活の顧問や先輩にさ」


 言いたいよ。

 僕だって言いたいってば!


 それで走れないし、スタメンは無理だって言いたい。

 身長だけで判断しないでって、言いたいんだってば!


「和木君だって、言いたいこと言えないことあるよね?」

 僕は誰だってそんな思いの経験者だろうって思って、苦し紛れにそう言ったんだ。


 なのに和木は黙ったまま僕の横を通り過ぎた。


 そして黒田も和木も、先頭集団はまたみるみるうちに遠ざかって行く。


 なんだよ。

 ほんと、完璧な奴らと比べるなよ。


 僕はぜいぜい言いながら走り続け、2人から拒絶されているような時間を味わっていた。


 彼らの背中は氷だ。

 僕とは住む世界が違う。


 それなのに。

 彼らはまた僕を追い越した。


 黒田は変わらず、「きついならさ、先輩に言いなよ」と有難いけど言葉が微温湯だ。


 和木が横にきて、僕は辛辣な言葉をもらうんだろうと予想して身構えた。

 でも予想と違って和木は言った。


「だよな。俺も言いたくても言えねぇことあるよ」

 倒れそうな僕の足の速度に合わせながら、和木君はそう言ったんだ。


「俺、黒田が好きだ」


 えっ!???

 僕の心臓が口から飛び出した。


 え!????

 聞き間違い?


 ちょっとちょっとちょっと!


 言えないことのネタが重すぎて、僕は正直ちじみ上がった。


 そんなの聞いていいの?

 いや聞いていいはずないじゃない!?

 言わないで、お願いだから。


「言うなよ」

 そう言い置いて和木は僕を抜かして走り去った。


 言うかよ。

 てか、言えるかよ。


 王様の耳はロバの耳。

 王様の耳はロバの耳。


 呪文のように僕は、その場に倒れ込んで地面に向かって吐くいきを繰り返した。

「オタクの青春は異世界転生」:2020年9月21日

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