王様の耳はロバの耳だろうが、そうでなかろうが。
気ままに投稿しています。
完全な異世界転生ものです。
まだ転生していませんが、お付き合いよろしくお願いします。
※
僕の中でオオカミで決定した和木君は、調理班を経験して少し、怖くないオオカミになった。
オオカミだって話せばわかる。
僕の亀ペースを理解してくれる。
そう思うと部活中も、さほど彼がいても緊張しなくなった。
でも僕は亀なんだよ。
相変わらず筋力が足らなくて、合宿中の毎朝のランニングで足が痛む。
ドクターストップかかってたっけ!?
骨と骨繋ぐ僕の軟骨、悲鳴あげてるんだっけ。
それでも僕は走っていた。
先頭集団をはるか遠くに見ながら、息をぜいぜいさせながら、それでも足を引きずるようにして走っていた。
「無理しないで。自分のペース守って」
黒田が僕の横に少し滞在し、そして風のように前を走っていた。
あ。
先頭集団に一周差をつけられた。
がっくりする僕の隣に、次に並んだ長身の和木がぼそっとつぶやく。
「あんたさ、なんで思ってること言えねーの? 膝壊してるなら言えば? 部活の顧問や先輩にさ」
言いたいよ。
僕だって言いたいってば!
それで走れないし、スタメンは無理だって言いたい。
身長だけで判断しないでって、言いたいんだってば!
「和木君だって、言いたいこと言えないことあるよね?」
僕は誰だってそんな思いの経験者だろうって思って、苦し紛れにそう言ったんだ。
なのに和木は黙ったまま僕の横を通り過ぎた。
そして黒田も和木も、先頭集団はまたみるみるうちに遠ざかって行く。
なんだよ。
ほんと、完璧な奴らと比べるなよ。
僕はぜいぜい言いながら走り続け、2人から拒絶されているような時間を味わっていた。
彼らの背中は氷だ。
僕とは住む世界が違う。
それなのに。
彼らはまた僕を追い越した。
黒田は変わらず、「きついならさ、先輩に言いなよ」と有難いけど言葉が微温湯だ。
和木が横にきて、僕は辛辣な言葉をもらうんだろうと予想して身構えた。
でも予想と違って和木は言った。
「だよな。俺も言いたくても言えねぇことあるよ」
倒れそうな僕の足の速度に合わせながら、和木君はそう言ったんだ。
「俺、黒田が好きだ」
えっ!???
僕の心臓が口から飛び出した。
え!????
聞き間違い?
ちょっとちょっとちょっと!
言えないことのネタが重すぎて、僕は正直ちじみ上がった。
そんなの聞いていいの?
いや聞いていいはずないじゃない!?
言わないで、お願いだから。
「言うなよ」
そう言い置いて和木は僕を抜かして走り去った。
言うかよ。
てか、言えるかよ。
王様の耳はロバの耳。
王様の耳はロバの耳。
呪文のように僕は、その場に倒れ込んで地面に向かって吐くいきを繰り返した。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年9月21日