そこカレーじゃないの?
一日一章気ままに投稿してています。
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「お前、料理できんの?」
「和木君て、料理できるんだ」
積み上げられた10人分の食材を前に、
僕たちは同じことを探り合った。
「お前なぁ、できなきゃ作るなんて言わねぇ」
「僕だって家で作ってくれる人がいないから、調理担当なんだ。
ーーひょっとして和木君も?」
「いや、日頃はつくらねぇ。お前んとこの家複雑そうだな」
いや、そんな複雑じゃないけど。
母が家事ダメなだけで。
「とりま何つくる?」
僕たちは用意された材料を確認した。
玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、牛肉
そして見慣れたことのある四角い箱!
ああ、ね。
てっぱんじゃないか。
「ビーフストロガノフか」
「カレーだね」
はいぃ??
なんですか?
ビーフストロガノフって?
完全にカレー粉って書いた四角い箱、無視してますけど、この人。
「森、米を洗って炊いといて。
あとそこにあるパンは、サイズに切って焼く準備、ガーリックオイルも作って」
なんですか、この仕切り方??
いや、仕切られるのに慣れているし、
命令されるの僕好きなんだけど。
だって自分で考えて行動するより、
人に命令されたことだけこなす方が楽だもん。
よし、ここはビーフストロガノフ!?
って料理に期待してみよう。
「ワインがねぇ、日本酒で代用するか。あっ生クリームもねぇ。牛乳で我慢するか」
和木がぶつぶつ言いながら、
まな板の上で玉ねぎを薄切りにしていく。
シュタタタタ!
あっという間に玉ねぎ10個が下処理され、
その手つきの良さに、一瞬見惚れた。
「おい、森早くしろよ。飯は炊くの時間かかるからな」
「うん」
そうだ、僕は兵隊にならねば。
はい、和木長官!
食べ盛りの男十人だ。
「何号炊きますか?」(長官!)
「パンがあるとしても15号ぐらいは炊いておこう」
「とすると炊飯器3台は出動ですね」
長官と部下になり切った僕の口調が変でも、
和木は全く気にしていない。
僕が米を洗っている間に、
和木はじゃがいもをラップに包んで、レンジに入れている。
やりますね長官、手早いっす。
「パンと飯の準備終わったら、ジャガイモ皮剥いてマッシュにしといて」
マッシューー。
Googleタイム。
あ、マッシュポテトですね。
「承知!」
そんな感じで僕たちは、和木が割り当てた作業をこなして、
なんとかかんとか調理を終えた。
所要時間きっかり30分。
10人じゃなきゃ、
こいつキューピー3分クッキングみたいに作れちまうんじゃ?
サラダ、ガーリックトースト、マッシュポテト、
そして美味そうなビーフストロガノフ。
飴色にとろけた玉ねぎに、牛肉が蕩けそうに柔らかくなっており、
おしゃれーに生クリームのように牛乳でラテアートされている。
腹をすかせて再び食堂に戻ってきたバスケ部員たちが、
少女漫画さながらに目を輝かせたのは言うまでもない。
「うわ、すげっ」
「うめーこれ、超うめー」
本当に美味しかった。
天国の味がした。
僕はいつも自分で作ったご飯を、自分一人で食べることが多い。
両親が特殊な職業だし、兄弟もいないから、
こんなふうに食卓を囲んで、
作ってくれた料理を味わうなんて、
天国だ。
「和木君、とっても美味しいよ」
自然とね、満面の笑顔になってしまい、僕は和木に礼を言った。
「おう……。お前もアシスト、ありがとな」
ーーあれ?
僕から視線を逸らせて、和木が礼を言った。
そして心なしか、顔が赤い。
まさか、あの超絶クールで陰険な和木が、
照れている!?
「今日は足りないもの多かったから、明日は食材ちょっと足しに行こうぜ」
和木が言った。
こいつ、もしかして結構いいやつ?
口や態度は横柄だけど、ここぞって時にチームのために動けるんだ。
僕はちょっとだけ、和木ヨースケを見直した。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年9月20日