ベットは奪い合うもんなんだよ
一日一章投稿しています。
軽めのノリで最後まで、書き上げるぞー。
応援よろしくお願いします。
※
合宿所の部屋は、案外広かった。
二段ベットが左右に並べられている。
二段ベットは上じゃないと僕は嫌だ。
絶対に嫌だ!
下の段は、上にいる人にのぞかれているみたいだし。
誰がどのベットを使うかは、部屋に入ったときから勝負が始まる。
それだけは合宿中の部屋が戦場に見えた時点でわかっていた。
陣取り合戦で、鼓舞する声(トキの声)が鳴り響き、
僕の目は眼鏡の下できらりと光った。
「僕……!!!」
ドサっ!
和木が二段ベットの上に自分のボストンバックを放り投げた。
「俺、他人の下になるの無理だから、上な」
いきなり早い!
なんていう理由、そしてなんという横暴さ。
二分の一、支配される。
潔さすぎて逆にかっこいいよ!
こういう人、きっと歴史に名を残す戦国武将になるんだろうなぁ。
僕は拍手してしまう。
いや、違う!
僕はすぐ客観的になってしまう。
悪い癖があるから自分の頬を手でパンと払う。
いや!
残る寝床は一席になってしまったじゃないか。二段ベットの上段席!
そこを勝ち取れーー!
いけーー!
全力で主張しようとする前のめりな僕に反する、余裕シャクシャクな意見が出て、僕は拍子抜けした。
「僕は別に和木の下でもいいよ」
え?
僕を静止したのは、黒田コウだった。
黒田コウ、大人か??
やっぱえらいわ、空気読むわ~。
「コ……、コウくんは、ーー背あるのに平気?」
「ああ。僕いつも女王様にかしづいてるから、下で十分」
え? 変態なの?
意味深だなぁと考えていると黒田は「妄想しないで」と少し眉を寄せて断ってきた。
「俺んち両親別に住んでるからさ、姉がうち仕切ってるの。女王様ってのは姉のことだから」
「あの僕のめちゃくちゃ好みの、あの美しい!、黒田アイ先輩?」
先輩になら僕もかしづくなぁ。
「わりと凶暴だけど、あんなのタイプ?」
タイプだよ!
どストレートだよ!
心の中で僕は叫んだ。
あんなの日常にいるレベルじゃない!
そこをわかって欲しくて力が入る。
「かわいいでしょ!? それにしっかりしてる感じがしていいなぁ」
そっかそっか、ちょっとシェリルに似てるんだ。性格的に。
「いいよね!! あんな美人の姉ちゃんと二人暮らし」
「んーまぁまぁなぁ……。今じゃ慣れたけどさ、けっこう子供の時はさみしかったりしたんだよ。俺不器用だから、ご飯は全部姉ちゃんが作ってくれたりして、面倒かけてたんだよね。だから頭上がらないの」
ほう。いい姉弟の話じゃん。
僕こういう話にめっぽう弱いんだ。
うちが尋常じゃないから。
「そういえば森君の家はどうなの? この学校ってさ、わりと親の職業で入学が決まる学校だから」
「確かに、平凡そうなのにな」
和木が口を挟んだ。
あ、金持ちにも見えず平凡の烙印を押されたことを悟る。
「そんな意味じゃないけどさ」
どんな意味さ?
「この学校の人って派手に親の職業とか自慢するやつが多いだろ? そういうのなくて俺はリトウ君てすごいなって思ってて」
「ほんと確かに、めちゃ平凡だ」
黒田コウの褒め言葉を完全に打ち消す、和木の声がにくい。
どうせ平凡ですよ。
でも僕の家は、かなり非凡ですよ。
悪かったな!!! 言いたくないけど。
「あ……父が作家なんだ」
当たり障りのない返事をしたら、和木がふーんと「売れてるんだ」と言った。
「そこそこね~。あ、でもペンネームは言えないから」
僕は予防線を張った。
奴らはさほど僕に興味がない。
だから肉食獣さながらに、少し生きた獲物の匂いをクンクンしているだけだ。
なんとしても親父がエロ流行作家だということは知られてはいけない。
僕は獲物さながらに、草陰で息を顰めた。
映画化の次は、それをテレビドラマ化するらしい。
僕にとって全然興味がないが、売れてるアイドル女優を脱がすらしいので、話題沸騰中だそうだ。
お陰様で僕はこうして、高額な授業料を支払っていただき、中学時代引きこもっていても入学許可を勝ち取った。
やっぱ世の中お金かもしれない。
子供なんてさ。
親の「犬が棒に当たった産物」みたいなもんだから、運命なんてガチャなんだよ。
いかんいかん。
残りの一席――。
今のガチャの方が大切で僕は気を張った。
え?
それなのに。
気が付くと樫木君が二段ベットの階段を上っていた。
「早い者勝ちってことで」
ウインクされる。
おまえ小さいだろ。下でよくない!?
ヤローにウインクされても気持ち悪いだけだよ。
「僕なんでも一番いい条件じゃないといやなタイプなんだ」
和木のミニチュア並みに性格悪いな。
僕はしぶしぶ、薄暗い下のベットに荷物をセットした。
「オタクの青春は異世界転生」2020年9月18日
いつするの、異世界転生?