同室マジ勘弁して
一日一章ぐらい気まぐれに投稿してます。
お付き合いよろしくお願いします。
ちなみに異世界転生後の主人公達は、別シリーズで活躍しています。
よろしければご覧ください。
※
合宿所は学校裏手の山沿いにあった。
僕たちは荷物を置くために、朝9時に集合した。
「お、森くん来た来た」
黒田コウが手を振った。
すでにジャージ姿に着替えている彼は、朝練でもしてきたのか、上気した顔で笑いかけてくる。
どこにいても爽やかな男だな。
その横には、反して爽やかでない男もいた。
和木ヨースケだ。
なんで着物着てるんだか。
藍染の着物を体格の良い体に着こなして、
仏頂面で立っていた。
「だからなんで着物!?」
ぶつぶつ。
「俺の普段着なんだよ。ほっとけ」
心の呟きが声になってしまっていた。
あわわわ、と両手で口を押さえるが、ジロリと睨まれた。
「僕たち同室だって」
「わっ、いやだ」
口に出た心の声は取り返しがつかない。
「おまえ、言うじゃないか」
またしても鋭い眼光で睨まれた。
「ぼ、僕はただ、一人部屋にしか慣れてないからっ!」
「あー、そうだよね。でもインターハイ出る一年は一緒にするように部屋割りしてくれたから、そんな気は使わないしさ。気楽にやろうよ」
この三人ね……。
正直言って僕は先輩の部屋の方が気を使わずに入れたかもしれない。
テンション上がりすぎで、本音がぽろぽろ口に出るのを防ぐために、僕は薄ら笑いを作って口角を上げた。
「とにかくよろしく〜」
僕は鼻の頭に収まりが悪い眼鏡をなおして微笑んだ。
その僕の後ろで、もう一人から声がかかった。
「わい、ーー僕も同室だから」
振り返ると誰もいない。
ん?
今確かに声が聞こえたような気がしたのに。
「ここだよ!」
僕は自分の視線よりも随分と低い位置に、声の主を発見した。
「樫木アキ。同じ一年だ、よろしく。黒田、和木、森」
彼は元気よく手を差し出した。
こんなやついたっけ?
「誰だおまえ?」
また思っていることを言ってしまったのかと焦ったが、口に出したのは和木だった。
「ほら、転校生だよ。5月からうちの学校に来ることになったって、先輩が言ってた人だよ。よろしくね樫木くん」
僕たちの無礼を、黒田が納めた。
んーさすが黒田。人間性がよくできている。
「バスケ経験者?」
和木が腰をかがめて、彼を覗き込む。
出たよ洗礼!
僕もこの失礼な凝視にさらされたっけ。
「うん。中学時代大会にも出てるよ」
バスケやるには、
「小さいのに大変そうだな」
また和木とシンクロしている。
性格の悪さは僕と和木は同レベルなんだろうか?
「小さいのはハンデってことで。この合宿で、インターハイ出場メンバーに入れるかどうか、試してくれるって先輩が言ってた。だから容赦しないよ。よろしく!」
おや?
出たい人が一人増えたじゃないか。
では、僕はゴールデンウィーク満喫してもいいですか!?
後ろを向いて帰ろうとする僕の服の背中を、一年生三人が同時に掴んだ。
「おい、いきなり逃げるな」
うわっ、今度は一年三人が同じことを言う。
なかなか良いチームになってきてるじゃないか。
シンクロは率初号機並に素晴らしい。
仕方なく僕は、三人の後について、合宿所の部屋まで移動した。
テレビくらいあるんだろうね〜。恨めしい。
「オタクの青春は異世界転生」2020年9月17日