眠れる美男子の毒舌
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
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「イチ、二、サン、シ、ゴ、ロク、ナナ、ハチ」
30回の胸骨圧迫、つまり心臓マッサージをする。
それから和木の鼻を摘んで、ふーと人工呼吸で彼の体に空気を吹き込む。
もう一回、長い息で、空気を送り込む。
「気道確保」
和木君、戻ってよ!
青ざめた顔はもう、死んでいるようにすら見える。
諦めないよ、僕は。
「もう一回! イチ、二、サン、シ」
腕を真っ直ぐに伸ばして、僕は和木の胸に手を当てて、心臓マッサージを繰り返す。
絶対に諦めたりなんかするもんか。
何度だって繰り返す。
和木君、戻ってきて!!
なにスカした顔で寝た振りしてるんだよ、バカやろー!
摘んでいる鼻筋まで、綺麗に整いやがってさ。
僕じゃ黒田の代わりにはなれないかもしれないけど、頼むから和木君。
もう一度人工呼吸を繰り返す。
その時、バチっと和木の目が開いて、僕と目があった。
「うわぁあぁぁ!」
僕が相当狼狽えたのは言うまでもない。
少し水を吐き出した和木は、軽く頭を振って、半身を起こした。
「和木君!!」
「やったで森君!」
僕は生気が戻った和木の首にしがみついた。
その横に樫木が走り寄って、ぴょんぴょん跳ねている。
「やったで、ようやったで森君!」
「よかったよぉ」
僕は情けないけど、和木の首筋にすがりついて、泣きじゃくった。
全身の力が抜けて、子供の頃に戻ったみたいに、わんわん声をあげてしまう。
「バカやろ、心配かけやがって。ほんとバカやろ、死ね」
「ああ、死んでたな」
冗談言ってるし。
本当に腹が立った。
でも安心した。
「森、樫木、ありがとうな」
「森君、すごい頑張っとったんや。息しとらんかった時は、おしっこちびりそうやったで」
そうか、と目覚めた和木は、相変わらず嫌なほど冷静だった。
「ーー黒田、生きてたよ」
「何やて?」
僕と樫木は前のめりになった。
「バスケやって、インターハイに俺ら連れて行こうとしてたわ」
「てことは、黒田君はバスの事故で死んでなかったてこと?」
「そう。あいつはちゃんと生きてた」
僕はまた泣き出した。
感情が昂って涙腺が緩みっぱなしだ。
樫木君も鼻水だか涙だかわからないぐらい、ブサ顔になって嬉し泣きをしている。
「会えたんだ、黒田君に」
よかったね、和木君。
それがずっと気がかりだったのだろう、何だか和木の顔はとても穏やかだ。
「俺の病気、おまえ治してくれたの?」
「いや、病気じゃないよ。これ人為的に」
いや、今はもう何でもいいや。
「戻ってきてくれて嬉しいよ」
黒田のとこにずっと居ようなんて、変な考え起こさずにいてくれて、ほんと嬉しい。
僕の方を見て、和木は悪戯っぽく笑った。
「お前、俺のこと、うるさいくらい呼んでただろ?」
うるさい、って何!?
「お前の声うるさすぎて、仕方ないからもう一回戻ってきたよ」
憎まれ口を言う。
くそ。
僕と樫木は、顔真っ赤にして猿みたいになってるのに、こいつだけは綺麗なまんまだ。
「ただお前、目を覚ました時にお前のブサイクな顔見て、もう一回死ぬかと思った」
僕は和木の首を締め上げた。
童貞の僕の、大事なファーストキスを返してくれ。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月28日
クライマックスに向かって頑張るぞ。
評価もらえて、更に元気出た。
応援よろしくお願いします。