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オタクの青春は異世界転生  作者: 一桃 亜季
126/144

またな

気ままに投稿しています。

お付き合いよろしくお願いします。

        ※


 今のはいったい何だったのだろう?

 自分達は幻を見たのだろうか。


 試合が終わり、コウが相手チームに礼を言った途端、

和木の姿が忽然と消えた。


 アイは何回も目を擦った。

 どこにも和木の姿がない。


「コウ!」

 あんたは見たわよね?

 一緒に試合してたわよね?


 アイはタオルを持ってコウの横に駆け寄った。

 そうするとコウは、泣きそうになるのを堪えたくしゃくしゃの顔で、少し笑った。


 アイからタオルを受け取って、汗と一緒に涙を拭う。

「お別れを……言いにきたんだって」

 まだ呼吸が整わずに、荒い息をしているコウは途切れがちに言った。


「やっぱ居たんだ、和木くん」

 あれは錯覚なんかじゃなかった。


 アイとコウは相手チームのメンバーと先生に礼を言って、体育館横の自販機で飲み物を買った。

 少し落ち着いたコウはベンチに腰を下ろして、アイを見た。


「試合中、ずっと和木と会話していたんだ」

 姉ちゃんのいう通り、和木や森、樫木も生きてるんだって。

 コウは穏やかな表情で和木と話した内容を話し始めた。


『相変わらずバスケしてるんだ』

『おまえもバスケする?』

『いいよ。おまえがバスケするならやってやるよ』

 一緒にやろう。

 中学校一年生の時に和木とコウは、バスケをすることで隣にいることを選択した。


 それからずっと同じユニホームを着て、同じチームで練習してきた。

 会話するより、たぶんボールをパスした回数の方が多い。


『やるなら、勝つよなぁ?』

 いつも冷静に見えるけれど、けっこう和木は負けず嫌いだ。

 自分をいつも焚き付けてくる。


『司令塔、で、どうよ?』

 和木は恐ろしく頭が切れる。

 まるで相手の動きが読めるかのように、確実なパスを回してくる。

『軽いな』と和木は言った。

 だったらこの試合、絶対に負けない。


『こんなのはオレ達なら簡単だ』

 和木がパスのタイミングを相手からズラして、完全に対戦チームの動きを翻弄していく。


『やっぱりおまえとするバスケは最高だ』

 2点目の得点を決めたコウは、和木に言った。

『そうだな。最高だ』

 和木はいつもの仏頂面が嘘のように、口を開けて明るく笑う。


 そんなふうに笑うんだな、おまえ。

 コウは驚かされた。


 中学のバスケチームの中でも、いいプレーはするけれど、和木はずっと浮いた存在だった。

 司令塔といわれていたのも、彼はチームメンバーをコマのように動かそうとするところがあったからだ。

 尊敬してそう呼ばれたというよりも、その言葉の中には、横暴な奴という皮肉も含まれていた。


『おまえ変わったな』

 コウは和木に言った。

 いつから変わったのだろうかと考えて、そうか、森利刀と一緒に合宿で料理を作リはじめてからだと思った。

 二人で料理を作っている時、和木は本当に楽しそうだった。


 合宿中、2段ベットの上の段で、次の日の献立を考えているらしい和木が、鼻歌をくちずさんでいるのを耳にしたことがあった。

 和木本人も、きっと気がついていなかったのだろう。

 「楽しそうだな」と声をかけると、「悪い、起こしたか?」と照れていた。


 森利刀と出会ったことで、和木は知らないうちに変化した。

『変わったか?』

『うん、いいふうに変わったよ』

 コウは3点目のシュートをする。


『おまえが生きててよかった』

『それはこっちのセリフだよ。この世界でおまえ……』

 コウは言葉を詰まらせた。


 それなのに和木は全てを察しているように笑う。

『オレの葬式出てくれた? 泣いただろ?』

 と無神経に言った。

『泣いてないよ』


 相手のディフェンスをうまく躱しながら、和木は後ろ手にパスを送ってくる。

 コウは受け取って、ゴール下に入り込んでいく。


『狼に食べられちまったのかと心配したよ。生きてたんだな、ほんと神様に愛されてるよ、おまえ』

『狼って何だよ、それ』

 軽口を叩きながら、4点目を決める。

 少しリンクに触ることができるほどの、パワーシュートだ。


『俺たち、何とかかんとか楽しくやってるよ』

 和木はそう言って、コートの隅からソッコーを仕掛けようと合図する。

『おまえが生きて、バスケしてくれていて、嬉しい』

『バカ……やろ』

 死んだやつにまで、心配されてたまるかよ。


 パスが通るたびに、会話をする。

『森のやつが呼んでるな』

『そうか』


『大丈夫だよな』

『ああ、和木』

 コウはリンクの手前で助走して、大きく飛び上がる。

『おまえオレの天使だわ、やっぱ』

 リンクを大きく超えて、上からボールを叩き入れる。

 和木が見惚れて、称賛する。


『またな』

『ああ。またな』

 試合が終わった。


「そんな別れ方だったよ」

 コウはスポーツタオルを頭からかぶった。


「泣きたかったら、胸貸すよ」

 アイはコウの頭をタオル越しに抱きしめた。

「泣かないよ。心配かけたらさ、あいつこっちに未練残して戻れなくなるだろ」

 コウはぐっと体に力を入れている。


「姉貴信じてよかったよ。あいつらが生きてるなら、おれもまた生きていける」

「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月28日

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