ファーストキス
気ままに投稿しています。
お付き合い、よろしくお願いします。
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和木の魂がここにない。
和木の生還を祈りながら、車輪を回して発電している僕には、それがはっきりとわかっていた。
和木は料理は好きだった。
でもリーインリーズにどれだけ重宝されても、料理人としての生活に魅力は感じていなかった。
僕が刃物って言う、和木が好きなものを錬成すると興味を引いたから、僕と一緒に料理人を続けていただけだ。
和木はきっと黒田コウが目の前から居なくなった時点で、生きる目的を半分見失っているように見えた。
『寿命が長いとか、どう思う?』
『可能性が試せるなら、いいんじゃない』
和木はそう答えたけれど、多分それは黒田コウに再び会える、可能性のことを言っているのだと僕は思った。
朦朧とする意識の中、和木が口にした言葉は、「クロダ」である。
バスの事故で、彼は黒田の消息を確かめる時間がなく、目の前にいる僕と樫木を優先してくれた。
けれどずっと、ーーずっと気がかりだったのだろう。
和木が弱って初めて、気づくことがあった。
「なぁ、和木くん風呂に入れてもう3時間経つで。わい代わるわ」
樫木が僕の頼りない車輪を回す手を取ってくれるが、僕はその取っ手を離すことはできなかった。
この取っ手離したら、和木をここに繋ぎ止めてるもの、全部断ち切ってしまうようで、僕は一歩も引き下がれない。
「大丈夫。まだ回せるよ」
額に脂汗が浮かぶ。
ここが正念場なんだよ。
それなのに僕の頑張りはあまり和木に届いていないようだった。
肩から下を裸体で水に浸しているけれど、回復の兆しが見られない。
マスタードだったらさ、致死率は低いはずなんだよ。
なんでこんなに、和木は回復してこない!?
僕は何か間違ったのか?
和木の発疹の一番ひどい部分は掌だった。
まさか気化する前の毒を直接触った!?
「森くん、なんかやばいで!」
樫木に声をかけられた。
和木が痙攣し始める。
頭だけ自ら浮かせるために、檜のヘリにタオルで和木の頭を乗せていたのに、水中に沈み込んで行く。
「和木!」
樫木と僕は水中に走り込んで、和木の体を浮上させた。
和木!
真っ青な和木はビクリとも動かない。
「まさか、だよな」
「おい!」
呼吸してない!!
「和木くん!」
僕は諦めないよ。
絶対に君を死なせたりしない。
「人工呼吸だ!」
僕はアニメとかで見た見様見真似の知識で、和木の鼻を摘んだ。
この際、ファーストキスの相手が和木でもいいよ。
文句あるけど、助けるためなら、なりふり構わないよ。
とにかく生き返れ!
呼吸してくれ!
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月26日