毒ガスなんて除去してやる!
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「あかん。氷水と布は用意してきたけど、医者呼べやんかった」
「なんで!?」
帰ってきた樫木に僕は焦って声を荒げた。
「なんか病院内、和木と同じ症状の人ごっつういるみたいで、封鎖されとるし、行列やし、ちょっとやばい状態や」
「えっ?」
和木だけじゃない?
てことは感染症は僕らが持ち込んだわけじゃなく、この国ですでに流行していたことになる。
「その人数ってどれぐらい?」
「そやな三十人はいたと思う、列になって診察待っとったで」
「どんな感じだった?」
「ああ、熱と呼吸困難があるって、あと水泡とか赤い発疹できとるって、家族の人が言うとったわ。昨日から突然なんやて」
和木と同じ症状だ。
昨日から突然って、そんな風疹や麻疹は存在しない。
「あかんわ、これじゃ魔物狩るクエストどころじゃのうなってしもた」
「うん」
その時僕はなぜか、アルビノの少年を思い出した。
白蛇のように赤い瞳と、猛毒の鉱物を口にした少年。
ゾクっとする。
まさか、この症状、感染症じゃなくて毒なのか?
あの少年なら毒ガス作ることさえ出来る気がする。
方向違いの心配をしていたのか?
僕は人為的に起こされた事件の方向で和木の症状を考えた。
発疹が出るような毒。
「あとさ、なんか町中ニンニク臭すごうて。リオナも気持ち悪なってしもうて」
「ニンニク臭?」
僕の記憶の中の毒の知識を洗い出す。
ニンニク臭のする毒。
第1次世界大戦中、ドイツ軍がベルギ-で初めて使用したと言われる毒ガス、マスタード。辛子とかニンニク臭がする毒ガスだった。
僕は血の気が引いた。
樫木君も、リオナも嗅いでしまった!?
毒ガスの中、走らせてしまった!?
成分は、硫化ジクロルジエチルで、農業開発の過程で偶然できてしまったものだ。
呼吸障害と皮膚に炎症を起こす、熱はたぶんアレルギー反応だ。
「樫木君、リオナと一緒に今すぐ風呂に入ってきて! 水風呂でいいから。それから目と鼻と口と、全部流水で流して」
僕は必死で叫ぶ。
こういう指示って、僕の役目じゃないのに、命に関わるかもしれないと思うと、僕も性格くらい変えられるよ。
「これ、人為的な毒ガスだよ。和木君みたいな症状にならないように、急いで。で、戻ってきたら和木も水風呂に入れに行く。それから、外出る時はこれ!」
僕は昨夜作った防護マスクを手渡した。
「でもなるべく今は外に出ないで」
そういうと僕は和木の瞼を開いて目の充血を確認した。
治療方法は除去しかない。
薬とか、そんなんじゃ治らないんだ。
次亜塩素酸で消毒するのが正攻法だけど、流水で洗い流しても効果はあるはずだった。
キッチンハイターがない時代だけど、作ってやるよ、次亜塩素酸。
次亜塩素酸風呂に和木をつけて、除去してやる、毒ガスを。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月10日