お母さんの評価
気ままに投稿してます。
お付き合いよろしくお願いします。
和歌山県から山梨県に行くまでは、特急、新幹線、特急を乗り継ぐのは最短ルートだが、
甲府駅についたころには、一日の日付変更線が超える時間になっていた。
道中、ホテル旅館予約サイト「ちゃらん」で、駅近くのビジネスホテルをとっていたので、二人はそこに一旦腰を落ち着けた。
「部活の顧問から頼んでもらおうとしたけど、まだチームのみんな、誰も賛同してくれないね」
「――うん、ごめん。思い付きで行動した。結局、こっち来るだけで6時間以上かかったし。姉貴に迷惑かけてる」
常日頃、思いつきで行動するのは自分の方だ。
コウは結構前もって準備する。
でもそれだけ、居ても立っても居られない気持ちになったのだろう。
感情が優先されている証拠である。
「いいよ。ちょっとこっちに滞在して、もうしばらくメンバーに連絡してみよう」
「うん。でも俺、一人でも行くよ」
そうだね、とアイはうなづいた。
「一人ででも行くの止めないけどさ、一応、顧問を通しておいた方がいいと思うから、せめて学校から山梨第一に連絡入れてもらった方がスムーズかもね」
「わかった」
明日は日曜日だ。
学校も休みになっているし、練習試合を申し込もうにも難しいだろう。
「月曜日に、顧問の先生に連絡入れてもらって、それからにしようか」
「うん」
土曜日は週に一日、唯一家族晩餐できる夜だったけれど、自分達は電話で親に急遽山梨に行くことを告げた。
電話口で親は、「いったいどうしたの?」と驚いていたけれど、コウは「試合だよ」とだけ言った。
バスの事故以来元気がなかったコウが、またバスケをし始めたのだと思って、親は喜んでいるようだった。
「私も付いていくから、心配しないで」
アイは姉の威厳を見せた。
けれど母さんは、「あんたが行く方が危なっかしいんだけど……。コウ見張っててね」というので、アイはすぐに電話を切った。
「大丈夫? 急だったから怒ってなかった?」
「うん大丈夫。私が怒ったけど」
アイは顔をしかめた。
「明日このあたり散策しながら、山梨第一高校まで行ってみようか?」
「姉貴はどうせ、ご当地グルメ期待してるんだろ?」
なんでわかるんだ!?
どきっとして冷や汗をかいていると、コウは甲府駅で自分が持ってきた観光案内のチラシを指さした。
「姉貴の頭の中はわかりやすいんだよ」と笑い、
「こんなところまで突き合せたんだ。明日は姉貴の行きたいところでいいよ」
と言ってくれた。
ううっ。
姉なのに、傷ついた弟に気を使われている。
お母さんの評価は正しいかもしれない。
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月16日