守銭奴誕生
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
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気分よく飲んだ次の日は、天国から地獄へ急転落下するようなつらさだ。
美味しいパスタにワインが進んで、完全に飲み過ぎてしまった。
朝起きたときから頭がガンガンして、たぶんいくつかの脳細胞が死んだ気がする。
アルコールは脳の萎縮を早めてしまうことが分かっている。
大脳や小脳が委縮することで認知症が進むこともあるので、僕は酒を飲みながら小説を書く、マキちゃんによく苦言をもらしていた。
その僕が。
正直人並みなのは知力だけで、脳だけが頼りの僕が、昨夜は自制心を失ってしまった。
恐るべしアルコール。
同じくらいの量を飲んでいたはずの和木は、爽やかな顔をして調理場に向かったのに、それを追いかける僕の足はまだフラフラしている。
情けない。
僕は痛む頭を我慢して、調理場に向かった。
「おはよ」
「ああ。起きれたのか」
何食わぬ顔で朝食の準備をする和木の横に並ぶ。
「卵、とってきてくれたんだ」
「ああ」
「おまえ、酒癖悪いな」
何も言えない。
おっしゃるとおりですよね、ほんと。
初めて作った鉄で、フライパンを錬成したので、
このところ和木はそれでオムレツをつくることを楽しんでいる。
バターも牛乳も豊富になるから、調理場は良い匂いが立ち込めていた。
「パンを焼くよ」
僕はその横でオーブンにパンの種を入れて焼き始める。
その後フルーツをむしって皿に盛るのが僕の仕事だった。
「なぁおまえ、昨日の事ちゃんと覚えてる?」
「へ?」
なんだっけ。
そういえばなんか重要な話をしてたような。
「あのメギツネ伯爵から直接受けたクエストだよ」
僕は思い出すのに束の間の時間をもらった。
そして自分がとんでもない約束をしてしまったことを思い出す。
『報酬は今日の5倍出す。低級精霊を操る魔物を狩ってきてくれ』
わーー!
思い出したよ。
「任してくらはい」
和木が口笛を吹きながら、僕が言ったことを揶揄するように繰り返した。
「おまえ低級精霊ですら見えないのに、魔物なんて狩れるの?」
僕の心臓が騒がしいぐらいバクバクいっている。
ヤバい、ほんとヤバい!
和木はふっと笑った。
「手伝ってやろうか?」
わーー! 和木くん、神!
「樫木君にも今日頼んでみるよ。お願い、和木君手伝って!」
一人じゃ絶対に無理なことだから。
「いいぜ。手伝ってやるよ。――ただし」
そこまで言って和木の目が三日月のように細められる。
「その代わり今回の報酬の取り分は、俺が決めるな」
わーー!
神じゃなくて、守銭奴だった!
「オタクの青春は異世界転生」;2020年11月16日