酒の力だよっ!!
気ままに投稿しています。
お付き合いよろしくお願いします。
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リーインリーズはパスタの夕食に上機嫌だった。
「フォークを使って、巻き付けて口に入れてください」
和木に言われたように、いいサイズに巻き付けて、美味いと言って口に運ぶ。
大盛りで作った皿が、どんどん減っていくのは、見て明らかだった。
「疲れているところすまないが、おかわりを頼む。小麦をここまで変化させるとは、本当に大したものだ」
「いいですよ、すぐにお持ちしましょう。ただ飽きてはいけないので、先ほどとは違う味でお持ちしましょうね」
和木はリーインリーズの胃袋を完全に掴んでいるようで、余裕たっぷりに微笑んでいる。
「新しい皿を持ってきたら、今夜はおまえたちも一緒に食べないか?」
ほとんど、調理場の賄いで済ませていた僕達の夕食は、その提案により食卓で取ることになった。
「おまえ達は本当に私を感心させている。早く市民権を取るといい、そうすればそれなりの権威を与えてやる」
リーインリーズ伯爵は、葡萄酒を片手に自分たちを褒め称えた。
だが和木は正直、早く風呂に入って休みたそうに、うっとおしそうな眼で彼女を見ている。
時折聞こえてくる舌打ちを横に、僕は小声で和木に言う。
「もうちょっと愛想良くして」
「酔っ払いにつき合わされるなんて、これが褒美か? 迷惑だ」
「大人の世界に入ったら、前の世界でも酔っ払い相手の上司を相手することだって、あったと思う。社会人なんだから、合わそうよ」
僕の訴えを、嫌な顔をして睨んでくる。
「言っとくけどな、こんな酒飲みの席じゃ、ろくな話出てこないんだよ」
やけくそになっているようで、和木は目が座るまで、久し振りの酒を煽っている。
「そうか、おまえ結構飲めるんだな。じゃあもっと飲め」
リーインリーズは和木の飲みっぷりが気に入ったらしくて、さらにその量を勧めている。
わっ、飲みくらべかな。
大学入ったり、社会人になったら、上司から飲まされるって言うシチュエーションが、異世界でも体験できている。
僕にも並々とそそがれる葡萄酒を、じっと見つめた。
昼間火傷した傷も痛むんだけど、飲んじゃっていいのかな?
「リトウ、おまえはもっと飲んだ方がいい。痛みも吹っ飛ぶぞ」
リーインリーズは豪快に笑って、僕の背中をばんばん叩いた。
そっか。
麻酔みたいなもんなんだ、この時代のアルコールは。
変に納得して、僕は従う。
ぐいっとグラスを傾けると、本当に結構いい気分になってきた。
「今日の活躍、すごかったな」
少しだけ現実に幕がかかったような状態で、リーインリーズは更に自分たちを褒めていた。
「いやぁ、それほどでもないですよ」
機嫌よく答えているのは自分自身だ。
「怖くはなかったのか?」
「はい、大丈夫でした」
かなりビビっていたけれど、僕はアルコールのせいで気が大きくなっていた。
その様子を見て、リーインリーズが少し口の端を上げたことに、僕は気付かない。
「じゃあさ、次のクエスト直接引き受けてくれない?」
「任してくださいよ!」
この時ほど、僕は酒の力の暴走を知った瞬間はなかったと思う。
慌てて和木が僕の口をふさごうとしたが、僕はテーブルにグラスをばんっと叩きつけて、「僕に任せてくれればぁ」と舌っ足らずに安請け合いしていた。
「じゃあ、次のクエストは低級精霊を生み出す魔物、狩ってきてもらおうか」
「任せてくらはい」
和木の腕が僕の首に回されて、ぎゅうぎゅうに締め上げられる。
けれど僕はその時、なんでもできる気分になっていた。
チャレンジしたらその先が見えるよね?
「オタクの青春は異世界転生」:2020年11月15日
感想、評価いただけると嬉しいです。
そろそろ文庫本一冊くらいになってきたので、終止符打つかもしれませんので、参考にさせてください。