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奇談散歩【58】 千疋狼 弥三郎婆 ( やさぶろうばば )

 千疋狼せんびきおおかみあるいは千匹狼は、日本の説話の類型の一つ。

 送り狼とともに狼の説話で有名なものとされ、※1「鍛冶が嬶」※2「小池婆」※3「弥三郎婆」など、類話が全国、広範囲に伝わっている。


 多くの伝承は、山中 ( 夜間であることが多い ) で、狼の群れに襲われた人が樹上に避難する。それを、執拗に追いかける狼たちが肩車をして梯子をつくり、樹上の人を襲おうとするが、後少しというところで届かず、狼が群れの頭目 ( 狼に限らず化け猫、鬼婆などのバリエーションがある ) を呼ぶ、というもの。


 基本的な話型があり、

・樹上の人間を襲うために狼が肩車をする。

・旅人に迫るが、高さが後少し、あるいは一匹分足らず、

・狼たちが頭目を呼ぶ。

・頭目が来る。

・襲われた人が刀(あるいは薪・棍棒など)で反撃し、頭目・狼は逃走。

・後日、人家で傷が証拠となり正体を暴かれ退治される。

( 老婆あるいは嬶に化けていることが多い )

※ 動物学者・平岩米吉氏は、これらをの伝承は、狼の夜行性、群れのリーダーの統率のもと集団行動する習性を意味し、狼が肩車を組むのは、狼の高く飛び上がる身軽さを表現したものと指摘している。


【 弥三郎婆 ・ あらすじ 】

 弥彦山の麓に、弥三郎という男が老母と暮していた。

 ある日、弥三郎は山中で狼の群れと行き会い、命からがら大木に登って狼から逃れた。

 獲物を諦めきれない狼たちは、肩車を組んで梯子をつくり木に登ってきたが、あと一匹分高さが足りない。すると、一番上の狼が「弥三郎の婆さを呼べ」と吠えたて、それに応じて黒雲が垂れ込め、雲の中から毛むくじゃらの腕が現れ、弥三郎を掴もうとした。死に物狂いの弥三郎が、刀でその腕を斬りつけると、雲も狼も消え失せた。


 狼は何故 自分の母を呼んだのだろうと、訝しがりつつ弥三郎が帰宅すると、

 家では母が布団を被って寝込んでいた。

 弥三郎が事情を話して切り取った腕を見せると、母は「これは俺の腕だ」と叫んで腕をつかみ、血を滴らせつつ何処かへ逃げ去った。この母の正体は鬼婆であり、本物の母は既に鬼婆に食べられてしまった後だったという。


 なおこの説話には、弥三郎婆は鬼ではなく狼の群れを率いる老いた猫だった、鬼婆が後に改心して妙多羅天という神になったなどの多くの異説がある。



※1 鍛冶がかか・高知県

『絵本百物語 桃山人夜話』に掲載された説話、この話に出てくる狼の頭目は鍋をかぶった白毛の狼。


※2 小池婆こいけばば・島根県

こちらの話では、狼の頭目は化け猫である。


 ※3「弥三郎婆」は、新潟県を始め、山形県、福島県、静岡県と広範囲に伝わる民話。中でも、新潟県弥彦山の伝説が有名。


『まんが日本昔ばなし』では「鍛冶が嬶」を元にした “ かじ屋のばばあ ” と、茨城県の民話 “ 狼ばしご ” が放映されている。




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