第85話 新著聞集『妖猫 友をいざなう』
神谷養勇軒『新著聞集』第十「妖猫友をいざなう」より
天和三年の夏、
淀の清養院という寺の住職が、ある夜 厠に行くと、
縁側の切り戸を叩いて、
「これ、これ」
と呼ぶ声がする。
すると、火燵の上にいた、寺の飼い猫が走ってきて、外から大猫を招き入れ、二匹は話を始めた。
「今夜、納屋町にて猫踊りがあるので、誘いに来た」
と、大猫が誘うと、
「最近、住職の体調が悪くて、私は添い寝をするので行けません」
と、寺の猫が答える。
「そりゃ仕方ない、次の機会にいたそう」
「―― しからば 手拭いを貸してはくれまいか ?」
「手拭いは住職が使っているから貸すことはできません」
「そうか、住職をだいじにいたせ」
話を終えると大猫は帰っていった。
話を聞いた後、住職は近寄って猫を撫で、
「わしは大丈夫だから、せっかくの誘い、おまえも踊りに行くといい。手拭いも持っていきなさい」
と、伝えた。
猫は手拭いを持って寺を出て、それきり戻らなかったという。
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』の「猫また」が手拭いを被って踊っているように、「猫」に踊りと手拭いは付き物で、猫が踊る話・喋る話は多く、手拭いを借りに来たり、被って踊ったりする。
そして、帰ってこない。
人に「踊れる」「喋れる」ことが知れてしまうと、猫は同居人に別れも告げず消えてしまう。
多分、民話・神話の「見るなの禁」のような掟が、猫の世界には有って、猫が「喋れる」「踊れる」ことは人に知られてはいけない。
だから、猫の同居人はそれを知ったとしても猫に悟られてはいけない。




