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第84話 耳嚢『猫 物を言ふ事』
寛政七年 春、
牛込山伏町のとある寺では、猫を飼っており、
住職は、この猫をたいそう可愛がっていた。
ある日、その猫が鳩を狙っていたので、住職は声を掛けて鳩を逃がした。
鳩に逃げられた猫は、
「残念」
と、喋った。
それを聞いた住職は、
「お前の正体は何なのか、白状しなければ不殺生戒を破って、お前を殺すことになる」
と、猫を問い詰めた。
すると、猫は、
「猫は、十年ほど生きると喋るようになり、十五年生きると霊力をもつのです」
という。
住職は頷いて、
「お前が喋れるのは、私以外に知るものも無い、このまま寺におるが良い」
と、告げた。
しかし、
猫は三度、お辞儀をすると寺を後にした。
その後の猫の行方は誰も知らない。
耳嚢は、江戸時代中期から後期にかけての旗本・根岸鎮衛が、佐渡奉行時代(1784-87) ~ 没する前年の文化11年(1814)まで、約三十年にわたり書きためた全十巻の雑話集。公務の間に来訪者や古老の話を収集、編纂したもので、怪談奇譚や武士や庶民の逸事などが多数収録されている。




