異世界で魔法練習
冒険者ギルドへ向かい、護衛依頼を探すため依頼ボードを見ているとレヴィアが小太りのおじさんに声をかけられる。
「すみません。閃光の勇者様でしょうか。私、アリオン商会のユピル・アリオンと申します。護衛の依頼を探していると聞いていたのですがどうでしょうか」
南口での会話を誰かに聞かれていたのだろうか。それにしても情報が出回るのが早すぎる。商人同士の情報網というのも侮れないものだ。昨日は聞き流していたがレヴィアがあのおとぎ話に出てくるような勇者だったことにも驚きだ。やはり有名人なのだろうか。
「ああ、違いない。私がレヴィアだ。それにしても情報が早いな。中央国までの護衛依頼であるなら嬉しいのだがどうだろうか」
「申し訳ありませんがその途中、人国までなのですがよろしいですか?」
人国。鍛錬の合間をぬってこの世界のことを調べていたのだが、どうもその国は人族至上主義という国らしく、奴隷制度もあるらしい。主に亜人が不当に囚われて売り捌かれているようだ。レヴィアはそのことについてどう思っているのだろうか?いずれ聞いてみたいと思う。
「まぁ、仕方がないだろう。その依頼を受けさせてもらうよ」
そういうと商人の顔は明るくなり、そこからは依頼料に関する話が続いたためヴァーデルと話をすることにした。
「ねぇ、ヴァーデル。僕にも魔法って使えるのかな?」
僕の適正は無属性と言われたが、どうせならその他の属性も使ってみたいと思うのが人の性というものだろう。聞いてみるとヴァーデルは難しい顔をしており、できないことはないと話した。
「そう、できないことはないのじゃ。ワシも最初は炎属性しか使えなかったしの。魔法はすべてイメージによって発現する。言ってしまえば誰でも全ての属性が使えるじゃろう。そのイメージさえ出来ればの。お主はどうじゃ?イメージ出来るか?ちょいと外に出て試してみよう」
レヴィアに外で待っていることを伝え、ヴァーデルが空間魔法で繋いでくれた荒野へ再び行く。イメージ。イメージ。昔母の料理を見ていたことがあったため、ガスコンロから火が出るイメージで発動することを伝えると、よくわからない顔をされた。どうやらこの世界ではあらかじめ備え付けられている平面に加工し、調節機能を付けた火の魔石を使い料理をしているらしい。そのため火で直接焼くのでなく、加熱して焼いているとのことだった。
「まぁ、いいじゃろう。お主の知識にあるのであればそれを活用するのが一番じゃ。一度そのがすこんろというものを見てみたいのぅ……」
魔女の知識欲なのだろうか。その思考から戻ってきて、呪文を教えてくれた。
「本来呪文はいらぬのじゃが、呪文はそのイメージの補助という側面が大きい。言葉に出すことによってより明確化させるのじゃ。ワシが昔使っていた呪文は、火よ、我が手より発現せよ。じゃな。地味とか言わんでおくれよ。人それぞれなのだからな。なんならアレンジしても良いぞ」
とりあえずは教えてくれた通りにやってみることにした。呪文はイメージのためと言っていたため下手にアレンジして惨事にでもなったら大変だ。手を前にかざし呪文を唱える。
「じゃあいくね。火よ、我が手より発現せよ」
そうすると、ガスコンロのように手の平に小さい火が発現した。それは中心に集まっていきやがて一つの大きな炎になる。
「ほぉ、やるではないか。では次は水じゃ。呪文は水よ、我が手より発現せよじゃ」
同じようにやってみると手のひらから大量の水流が川のように出てきた。イメージしたのが海や川のようなイメージだったからだろうか。急いで止めるがヴァーデルも僕も水浸しになってしまった。
「威力が強すぎるぞ……おかげで全身びしょ濡れじゃ。まぁいい。次は地属性じゃ。これは少し難しいかもしれぬな。地面に手を置いてこう唱えるのじゃ。地よ、隆起せよ。じゃ」
濡れてしまって少し寒いが、それにならってやってみることにした。すると、イメージがうまくいかず、砂場の山のようなものができて終わりになってしまった。
「まぁ、最初はこんなもんじゃ。水と火は比較イメージしやすいからの。地と風が難しいんじゃよ。次は風もやってみるか?」
やってみたいと伝えたら満足げに頷き呪文を教えてくれた。そして気が付くとびしょ濡れだったヴァーデルの服はもうすでに乾いていた。
「風よ、舞い上がり旋風と化せじゃ。」
その通りやってみるが、やはり風のイメージというものがよくわからず、そよ風が吹いたくらいで終わってしまった。
「ふむ、これでお主の適正がわかったな。本当は空間魔法も教えたいところだがこれはまた今度じゃ。話し合いもそろそろ終わってる頃合いだろうしもどるぞ」
そういい今迄通り、空間魔法を使いゲートを作り、元いた場所へとつなぐ。するとレヴィアの声がさっそくした。
「見つけたぞ!全くどこへ行っていたんだ!さらわれたのかとおもってヒヤヒヤしたぞ……。おいヴァーデル。こういうことをするなら事前に伝えておくんだ。わかったな。まぁ、何はともあれ雄君が無事でよかった」
公衆の面前で抱きしめられながら頭をなでられた。嬉しい反面少し恥ずかしい気持ちもある。ヴァーデルはシュンとして落ち込んでいた。この人は意外と繊細なのかもしれない。今度からもう少し優しくしておこうと思った。
「そうだレヴィアよ、面白いことがわかったぞ。雄は無属性魔法が適正と言われたが火と水にも適正がある。それに水が特に伸びるやもしれん」
それを聞いたレヴィアは自分のことのように喜んでいた。
「凄いじゃないか!それに水属性が使えるとなると私とお揃いだな!これほど嬉しいことはないよ雄君!ん?びしょ濡れじゃないか!幸い依頼はは明日からだから早く宿に戻ろう!風邪を引いてしまう!」
そういうと僕を抱き上げ風のように宿屋まで走り抜けていった。浴室まで着くと服を脱がされかけたため、そこだけは死守して自分入ることになんとか成功した。
取り残されたヴァーデルは、家を引き払ってしまったらしく、怒りながら追いかけてきて、一人部屋だというのに僕を中心として密着して三人で一つのベッドで寝ることとなってしまった。