異世界で加入する仲間
魔力測定が終わり、魔力回路も開いてもらったため、体が凄く軽く感じる。レヴィアに付き添いをしてもらって街の外で走ってみたら明らかに速さが上がっていた。足が速くなるようにイメージして魔力を込めて走ってみるとまるでブースターでも付いているかのように速く走れた。それにこの身体強化は他人にも掛けられるみたいで、全身に力がみなぎるようイメージしレヴィアにかけてみると、集中した自分の目でも見切ることさえ出来ないほどの速さの神速剣になってしまった。ただでさえこの人は強いのに更に強くなってしまった。敵には回したくない。
「ふむ、雄君の魔法は万能だな。流石は私の見込んだ男だ」
そういい頭を撫でてくる。いつもなら払いのけるが、今はそこまで嫌悪感や羞恥を感じないため、なされるがままにされる。いい気持ちだ。
「ところでレヴィアさん。この後は何をするんですか?」
そう聞くと少し考え込むようなしぐさをして、思い出したかのように冒険者ギルドに登録に行こうと言い出した。確かに今の自分だったらなれるような気もするが、この世界に来た時のようにあの黒い生き物を思い出してしまい尻込みしてしまう。そのことを伝えると、手本を見せてあげるといって街より東に行ったところにあるイグファの森という所へ歩いていく。どうやらその森は冒険者になり立ての人が良く狩りをする場所らしく、レヴィアが付いているなら安全だと教えてくれた。そしてたどり着くと指笛を吹いた。
「君なら大丈夫だと思うが、私のそばを離れないでくれよ。怪我はさせたくないからね」
指笛を吹いて間もなく狼のような生き物が五体程現れた。ウルフという魔物だと教えてくれた。その生き物はこちらを警戒しているのか周りを取り囲んで唸っている。正直、怖い。何より、こちらの世界に来て初めての心の拠り所、レヴィアを失ってしまうのが恐ろしかった。
「レヴィア、怖いよ。レヴィアも死んじゃうよ!」
鎧からはみ出た服の裾を引っ張り、震えていると頭を撫でられ、大丈夫だと笑顔で言われた。するとレヴィアは何かを呟き始める。
「水よ、顕現せよ。凍てつき氷塊となりて敵を討て」
レヴィアと僕を取り囲むようにしてどこからか水が形を成して、それが鋭い氷柱になり五体のウルフに向かって放たれた。当然ウルフは避けるが、そこで再びレヴィアは呟く。
「氷塊よ、意思を持ち敵を追跡し撃滅せよ」
こういうのはイメージが大切なんだとウインクをされる。すると外れた氷柱は意思を持ったかのようにその場で止まりウルフを追跡し始める。いくら逃げても追いかけてくる氷柱に対して苛立ったのか、ウルフはレヴィアに向かってそれぞれ襲い掛かってきたが、氷柱がそれを許すはずもなく速度を上げ五体のウルフすべての体を貫きその命を散らした。
「まぁ、こんなもんだ。君にはまだこの森は早いかもしれないが、いずれは出来るようになってもらうよ」
それまでは特訓あるのみだと頭をポンポンと叩かれ、日が暮れ始めたため、手を握られ街へと帰ることとなった。その日の夜は再び走り込みだった。身体強化を使って楽をしようとしたが即座に見抜かれ叱られ魔封の腕輪と言うものをはめられた。これは基本犯罪者に使われる代物で、開かれた魔力回路も強制的にシャットアウトされるため本当の素の体力が鍛えられるとのことだった。そうなるとやはり体力が全く持たなく、すぐに疲れ果ててしまった。それでも前よりは距離は伸びたような気がする。訓練が終了し、汗をかいたため入浴しようとするとレヴィアも一緒に入ろうとしたためそれだけは何とか阻止することができた。
「背中を流してあげたかったのに……」
とものすごくガッカリしていたがさすがに恥ずかしさが勝ってしまうから申し訳ないが我慢してほしいと思った。
入浴から上がると、部屋がノックされ、いつもカウンターに立っていた男の人がお客様が来ていると教えてくれた。
「わかった。部屋に通してくれ」
そういうとどこからか風が吹き旋風となってその人は現れた。流石に二回目となるとそこまで驚かない。
「おいお主ら!昼間はどこにいっておったのだ!探しても探しても見つからなかったのじゃ!」
お怒りモードのヴァーデルが旋風とともにやってきた。それはそうだ。昼間は街の外でいろいろと訓練していたのだから。そのことを伝えると、街の外だったか……と崩れ落ちてしまった。
「それで、ヴァーデルさんは僕達に何か用があったの?」
よよよと崩れ落ちていたヴァーデルはそうだと立ち直り張るほど無い胸を張る。魔女服の隙間からお臍が見えているのが幼心にかわいいと思ってしまった。
「いやなに、ワシもそなたらの旅に着いていこうと思ってな。あのレヴィアが子供を連れてるんじゃ。面白いことになるに決まっておろう。もうこれは決定事項だからな」
何も面白いことにはならないと思うが、レヴィアが雄君との二人旅が……と呟いているのが聞こえてしまった。そんなに僕と一緒に旅がしたいのだろうか。そこで思っていたことをレヴィアに伝える。
「レヴィアさん。人数は多いほうがきっと楽しいですよ。それに魔法使いですよ魔法使い!カッコいいじゃないですか!」
「いやそんなカッコいいだなんて……照れるのぅ……」
ヴァーデルが照れている。でもカッコいいものはカッコいい。あの登場の仕方だって真似したいくらいだ。レヴィアはため息をつきあきらめたような表情をしていた。
「まぁ、そうだな。なんだかんだいってこのインチキ魔法使いも強いんだ。仲間にしておいて損はないだろう……そういうことでよろしく頼むぞ。ヴァーデル」
「インチキとはなんじゃインチキとは。ワシの魔法は正真正銘オリジナルの魔法じゃわい。ナメるでないぞ?」
そこで問題が発生した。宿屋はこの一室しか借りていないため、さすがに同じベッドに三人で寝るには狭すぎる。カウンターに聞きにいっても、どうやら近々祭りがあるようで一室も空いていないとのことだった。そのため、荷物をまとめてきたと言っているヴァーデルには申し訳ないが、もう一度元の家に戻って寝てもらい、翌朝街の南入口でまってもらうこととなった。去り際にぐぬぬといっていたがしょうがないものはしょうがないのだ。
時は進み就寝時。レヴィアにはどうやら抱き付き癖があるらしく、ふと夜中に目が覚めれば抱き枕にされているときがあるのだ。最終的には寝られるのだが、ドギマギしてしまって中々寝つけないときがあるのがつらいという話だ。