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TLS外伝 ~a crying soldier~  作者: 黒田純能介
7/50

遭遇


サクサクサク。


雪の降る中、街並みを眺めながら歩く姿。


…須藤だ。


行き交う人々が防寒対策を十二分に採っている中、ノースリーブ一枚にジーパンという出で立ちはある意味異様であった。


「フンフフ~ン」


鼻歌を歌いながら歩いていく須藤を、まるで宇宙人が通り過ぎるのを見ているかの様な目で皆見つめていた。






―――丁度同じ頃。


碁盤の目に区切られた地区の、数ブロック隔てた区域。その裏路地を猛スピードで駆け抜ける姿があった。


「はぁ、はぁっ…!」


年の頃十四、五歳程の少女。ややあどけなさを残しているが、徐々に大人の顔を見せつつある年頃。


しかしその動きは俊敏で、追ってきている人物達はなかなか追いつけずにいた。




―――アカン、撒ききれへん…っ。




少女は内心舌打ちすると、次の角を右へ曲がる。




―――後二、三度曲がれば大通りや…。そこまで逃げれば何とかなる…!




ザザッッ!雪を跳ね上げ、二つ目の角を曲がった時だった。


「…!」


目の前の路地を、こちらに向かって歩いてくる青年。


逆立てた頭髪に、この寒さの中ノースリーブ一枚と黒色のジーパン。


そして何より目を引くのが、その背に負われた長物。


一瞬、新手と思ったが雰囲気が違う。そもそも新手なら直ぐに取り押さえに来る筈だ。


そんな少女の思惑とは別に、青年は鼻歌混じりに呑気に歩いていた。


「兄ちゃん!早よう逃げるんやっ!」


引き返している時間は無い。全力で疾走しながら、こちらに歩いてくる青年に大声を浴びせる。


不意に大声を浴びた青年は、呆気に捕られた表情を一瞬浮かべたが、体当たりでもしそうな勢いの少女を避けようと路地の端へと飛び退く。




―――ああもうっ!




勢いをやや殺すと、走り抜けながら青年の腕をむんずと掴む。


「おおうわ!?」


素っ頓狂な声を上げる青年を引き摺る様に走る。


「アホか!逃げろ言うとるんに何で避けようとするんや!」


頭の上にハテナマークが乱立している青年に怒鳴る。


「いや、急に来たらそうなるだろ…っ!?どわっっ!?」


青年が慣れない足元を滑らせ、躰を宙に浮かせる。


「ひゃっ!?」


手を引いていた少女が巻き添えに地面へとダイブする。


ズシャァァア!


青年は頭から派手に雪へと突っ込み、少女は強かに尻餅を付く格好となった。


「い、たたたた…」


「うぐ…。か、顔が…」


それぞれ打ち据えた所を押さえていた時だった。


「居たぞーっ!」


「アカンっ!早よう立てぇ!」


少女が跳ね起きると、再び怒鳴る。


「つつつつ…」


青年はまだその場にへたり込みながら顔を押さえている。




―――今日は厄日や…。




少女は嘆息すると、青年の腕をひっ掴むと無理矢理起こす。


「アンタァ!シャキッとせぇ!でないと死ぬでぇ!?」


「う~。何が死ぬって…?」


「エエから早く…ッ!?」


再び大通りへと向かうルートに向き直った少女の目に、数人の男達が向かってくるのが映る。


ザザザザ…。




―――アカン、挟まれた…。




少女が下唇を噛み締める。


ザザッ!


前後から、皆一様に同じ格好をした男達が二人を取り囲む。


全員、黒装束に身を包み、さながら忍者の一団の様に窺えた。


「手間を掛けさせおって…」


一団の中から、リーダー格の男が進み出る。


「小娘…。それは貴様には過ぎた代物だ。早々に返して貰おうか?」


「イーッ!嫌や!」


少女は両手の人差し指を口の両端に掛け、小憎らしげに拒否する。


「そう云った所で結果は変わらんがな」


リーダー格の男は、一旦言葉を切ると青年を一瞥し、


「…そこの若いの。巻き込まれたと見るが…。悪いが一緒に死んで貰う」


「待ちぃな!この兄ちゃんは関係あらへん!」


男がギロリ、と少女を睨む。


「巻き込んだのはお主であろう?」


言いながら、背に負った片刃の直刀―――忍者刀を抜く。


「ううう…」


少女が歯噛みをする。その時。



「待ちなよ」


顔を押さえていた青年―――須藤が顔を上げる。


「聞いてりゃ何だよ、大の大人が寄ってたかって女の子をさぁ?ちょっと物騒なんじゃないの?」


パンパン、と尻に付いた雪を振り払う。


「…邪魔立てするなら、楽には死ねぬぞ?」


男が忍者刀を八双に構える。釣られて、周りの男達もそれぞれ忍者刀を抜き放つ。




―――乱れが無い。コイツら、どこかの軍隊か…?




須藤は値踏みするように男達を見回す。


「に、兄ちゃん…」


不安げな声を上げる少女に、須藤が振り向き、ニカッと笑う。


「大丈夫さ。おじょーちゃんはちょっと下がってな」


その物言いに、やや少女が不機嫌そうな顔をする。


「ウチはおじょーちゃんじゃああらへん!侑子て名前がちゃんとあるんや!」


須藤は一瞬呆気に捕られたが、直ぐ笑顔を取り戻す。


「ユーコか。良い名前だな。ま、ちょっと下がってな。この須藤お兄さんが助けてやっから」


侑子がむくれるのを笑顔で見ると、目の前の男達に向き直る。


「死出の挨拶は済んだか?」


「冗談。さ、来なよ。悪い大人はまとめてぶっ飛ばしてやっからさ」


「笑止。かかれぃ!」


男の号令に、部下達が一斉に須藤へと躍り掛かる!


「ハッッ!どりゃぁあ!」


素早く空中へと跳躍し斬撃を回避すると、手近な男の顔面に蹴りを浴びせる。


めきょ、という感触と共に男の鼻が折れる。


「ごめんよっ!」


ズンッッ!


更に追い打ちと言わんばかりに、その顔を踏み台にする。


「おおおりゃぁぁぁあ!!!」


そのまま反対方向へ飛び、未だ硬直している数人の男達を脚で薙払う。


その一撃で、四、五人の男達が無様に雪上に転がる。


「へへん。チョロいなっ」


残った男達は、倒れた仲間を意に介せず須藤へと向かっていく。


「…」


リーダー格の男は一人、自分の部下達を次々倒していく須藤を冷静に観察していた。




―――彼奴…。相当の手練か。刀を持つ相手に徒手空拳で全て去なしておる。その上急所を外すとは。




世の中は広い、と感心した後、側に控える部下に耳打ちする。


部下は頷くと、速やかに行動を開始した。



「うぉりゃぁぁあ!」


バグンッッッ!!


最後の一人を、掬い上げる様なアッパーカットで吹き飛ばす。


ズシャァァア!


数メートル吹き飛ばされた男は、雪の上に臥したまま昏倒した。


「ふぅっ。こんなもんかな……ッ!?」


侑子に向き直った須藤の目に映る光景。


「ご、ごめん兄ちゃん…」


侑子が男に羽交い締めにされ、その喉元には刀が突き付けられていた。


「しくじった…」


苦虫を噛み潰した表情の須藤に、リーダー格の男が語り掛ける。


「是以上の抵抗は止せ。貴様の闘い振り見事だった」


ザッ、ザッ、ザッ…。


リーダー格の男が須藤へと近付く。


「…」


須藤が侑子を見やる。


…羽交い締めにされながらも、手元が動くのが見えた。


「貴様程の手練、亡くすには惜しいが…」


リーダー格の男が刀を振り上げる。


「『善』の名の下に散るが良い!」


ギラリッッ!


刀が振り下ろされる刹那!


「ユーコ!今だッ!」


「ヤァァッ!!」


ガキィィン!


「何!?」


背後で上がる叫び声に、リーダー格の男が反応する。


侑子を阻む刀が宙を舞う。


何時の間にか侑子の手に仕込まれていた手甲が刀を弾き飛ばし、


「いゃぁぁぁあ!」


クルリと一回転。


バキッッッ!


狙い澄ました裏拳が先程まで羽交い締めにしていた男の顔面にヒットする。威力は軽かったが、不意打ちの下、効果はあった。


「正面がら空きだぜ!オッサン!」


「むぅっ!」


リーダーの男が見せた隙を突こうと須藤が拳を繰り出すが、相手の方が早かった。


ブンッッ!


拳は虚しく空を切る。



「フハハ…。まさか小娘にもしてやられるとはな」


リーダーの男が忍者刀を納める。


「………」


須藤は構えを解かない。侑子が直ぐに側へとやってくる。


「良かろう。今回は儂の気紛れで見逃してやろう」


ヒュッ。


先程侑子を羽交い締めにしていた男がリーダーの下へと戻る。


スッ…。


何かの包みをリーダーに手渡した。


「あっ!」


侑子が慌ててサイドバッグを覗き込む。


「フハハ。これは確かに返してもらったぞ」


リーダーが踵を返す。


「者共!帰還じゃ!」


その号令をきっかけに、須藤が打ち倒した男達が次々と起き上がる。


「…!」




―――コイツら…。直ぐには立ち上がれない筈なのに…!




須藤は急所を外していたが、ダメージは蓄積する部位を攻撃していたはずだった。


「若者よ。名は?」


リーダーが顔で振り向き問う。


「…須藤。須藤 叢雲だ」


リーダーが唇の端を歪める。


「須藤か。良い名だ。…儂は伊達。伊達(ダテ) 奇十郎(キジュウロウ)。何時かまたまみえるかもしれぬな」


そこまで言うと、伊達は駆け出す。



…バラバラバラ…。


男達全員が去って行くのを見届けると、須藤が侑子を見やった。


「さっ。悪いヤツは追っ払ったぜ!」


親指を立てながらニカッと笑う。


「アホかっ!!」


ドガッッ!


「はうぁっ!?」


強烈な脛蹴りが決まり、須藤が悶絶する。


「おおおううぅ…」


「呻いとる場合かっ!せっかくウチが持ってきたデータ、取り返されてもうたやないか!」


顔を真っ赤にしながら罵声の雨を須藤に浴びせる。


「ひ、ひでぇ」


折角助けたのに、と一人ごちる。


ふと、罵声が止んだ。


「ま、まぁ命は助けて貰ったから、礼だけは言っとく」




「…あ、ありがとな」


今度は顔を赤らめ、ひどく躊躇いがちに、ポツリと言う。


そんな侑子に、須藤は微笑んだのだった。



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