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TLS外伝 ~a crying soldier~  作者: 黒田純能介
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血煙の騎士


「首尾はどうだ?」



とある地域。広大な地に設けられた陣に、南条の姿があった。


「はっ。敵勢力は半数が瓦解。撤退を始めております」


部下が先程まで行われていた戦闘の報告をする。


「…分かった。追撃を出せ。大将を生かして捕縛せよ」


「はっ!」


部下は敬礼をすると、即座に陣の外へと消えていった。


「………」


部下が消えたのを見届けると、持っていた手帳に目を戻す。


「今回も圧勝の様ですね」


側に立つ副官が声を掛けた。


「…だが、大局的な事は何も変わらん。これも蜥蜴の尻尾切りだ」


南条は記入を始めた手帳から目を離さずに答える。


「全くで。いつになったらこの戦争も終わるんでしょうかね…」


「………」


南条はその疑問に答える事無く、一心不乱にメモを書き留めていた。


副官はそんな南条に苦笑すると、様子を見てきます、とだけ残し陣の外へと消えていった。




…ハタ、と動きを止める。




―――僅かな殺気。




用意されていたテーブルの上に手帳を置く。


「出て来い。私には誤魔化せん」


言いながら振り返り、腰のレイピアに手を掛けた。



…途端に殺気が強くなる。南条が身構えた。


ヒュヒュン!!


突如、陣を見下ろす木陰から投げナイフが襲来する。しかも二方向から。


「ハァッ!!」


カキキンッ!


しかし南条が瞬時に抜き放ったレイピアにより、二条の凶刃は地に落ちた。


ザザッ、タンッ。


木を揺らし、二つの人影が陣へと舞い降りる。


「暗殺者か…。常套手段だな」


スッ、とレイピアを構え直す。それに合わせ、二人の暗殺者が腰に差した短刀を抜き構える。


一分の隙も無い構え。南条は相手の距離を読みながら相手の出方を待った。


一方の暗殺者は、ジリジリと左右に動き始めた。挟み撃ちを狙うつもりなのであろう。


「………」


南条は微動だにしない。とうとう、二人の暗殺者に挟まれる形となった。


耳が痛くなるほどの静寂。




―――そして、不意に静寂が破られた。




タンッ!


両サイドの暗殺者が地を蹴る!


「…フン」


あまりにも単調な攻めに鼻で笑うと、回避の為に一瞬身構え、直後背後へバックステップ。


ヒュンヒュンッ!


短刀は空を斬り、一瞬隙が出来た。


「甘いッ!」


ヒュンッ!


右手のレイピアを振り上げ、斬り上げる。…だが読まれていたのか、二人の暗殺者はサイドステップで身を翻す。




―――なかなかの反応速度だ。だがっ!




レイピアが振り抜かれる直前に、南条は一歩踏み出していた。


二人の暗殺者は、まだ着地すらしていない。


南条は迅雷の如く間合いを詰めると、その刃を右手の暗殺者に突き立てる。


ドスッッ。


鈍い肉の感触と共に、レイピアの切っ先が喉を貫く。


瞬時に引き抜き、左手の暗殺者へ向き直る。…既に相手は態勢を整えていた。


ドサッッ。


背後で刺した暗殺者が倒れる。


「ハァァッ!」


レイピアにこびり付く血液もそのままに、鋭い突きを繰り出すッ!


ヒュヒュヒュヒュンッ!


文字通り目にも留まらぬ速さで、突きの雨が暗殺者に襲い掛かる。




―――速い…。




自身の高速の突きをかわされながら、南条は内心舌打ちをする。


何れの刺突も、全て紙一重で免れている。




―――埒が空かん…。




ヒュンッ!


最後の一撃を終えると、正対し構える。


ザザッ…。


対する暗殺者も、態勢を立て直し構えた。


その時だ。


「…!」


背後に殺気を感じた。反射的に振り向くと同時に、


タンッ


正対していた暗殺者が土を蹴る音が聞こえる。


背後の殺気は、刺し殺した筈のもう一人の暗殺者だった。




―――バカなッ!?致命傷の筈!




南条が思考を巡らせる間に、二人の暗殺者が迫る。



――そして、三者の距離がゼロになった。




ブシュウゥゥッッ!!!



…二人の暗殺者は、何が起きたかも理解できずに地に臥した。


一人は首が半分、途切れていた。


もう一人は、胸に貫通痕。的確に両肺と心臓を貫かれていた。



…そして、舞っていた血煙を浴びた南条が、二人に背を向け立っていた。


その姿は地獄の騎士、そのもの。


くるりと振り向くと、二つの暗殺者を感情の無い目で見下ろす。


まだ心臓の拍動が続いているのか、血溜まりが広がってきていた。


グググ…。


胸を刺した暗殺者が、最後の力を振り絞ってうつ伏せから仰向けになる。そして懐に手を伸ばそうと――


「哀れ」


その時点で、暗殺者の腕が宙を飛んでいた。


もう血は噴き出さなかった。



…コトリ。



肘から先が無くなった腕を投げ出し、事切れる。



「…ふぅ」


暗殺者の命が消えたのを見届けると、南条は肩を落とす。


「流石に消耗する…」


ガタッ、と手近な椅子に腰掛ける。レイピアは既にその場へ放り出されていた。



…数十分後、戻ってきた副官が目の当たりにしたのは、血溜まりに沈む二つの死体と、血塗れで机に突っ伏す南条だった。




―――私は何時から、こんな闘い方をしているのだろう。



生まれた時から?



いいや、違う。



私には、親は居ない…。



チガウ、そウじャなくて…。



冷タイ、がらすノ中…。


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