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TLS外伝 ~a crying soldier~  作者: 黒田純能介
42/50

狂戦士


敷島は言葉を待っている。


「…レイは谷底に落ちた」


みるみるうちに敷島に動揺が広がっていく。


「ただ底は河だ。急げば助かるはず。助けを呼びに行ってくれ」


パニックに陥る前にと、素早く言葉を要点だけ繋ぐ。


「う、うん…」


やっとの事で頷き返す。


「ここは俺が持つ。ユーコ。頼んだ」



…正直な所、南条の事は絶望的だった。いくら頑丈な人間でも、相当な高さから転落したのである。下が水とはいえ、生きていられるとは思えなかった。


だが、この状況でありのまま伝えたのでは、敷島まで危険に晒す。そう考えたのだった。



「行くんだ、ユーコ。時間が無い」


脚がすくんでいるのか、頷きながらも動けない様子の敷島を無理矢理立たせる。


「ツ、ツンツン…」


心配と不安が入り混じった顔で、敷島が見返してくる。


「大丈夫さ」


それだけ言い、いつもの笑顔を見せてやる。


「うん…っ」


敷島が踵を返す。



しかし、そんな二人を蒼琉が見逃す筈は無かった。


「簡単に見逃す訳にはいかねぇなあ。…おい」


自分の左側に立つ兵士に合図をする。


「ガキを撃て」


ダァァァァン!


即座に反応し、引き金を引いた。


狙いは能わず、敷島へと真っ直ぐに弾丸が走る。



そして―――



ガギンンンッ!!


不意に現れた金属の壁に阻まれ、宙へと跳ね返った。


「行けッ!走れッッッ!!」


大剣を横に構え叫ぶ。その圧力とでも言うのだろうか。弾かれた様に敷島が駆け出す。



タタタタタ…。



無事に敷島が走り去るのを確認すると、兵士達と蒼琉に向き直る。


「…ハッ。なかなかイイ反応してるじゃねぇか」


楽しげに語る。



「…あんたの存在は、許さない」



…ガンッッ!


手にした大剣を床に突き立てる。


…ずっと、抑えていた怒りが解放されていく。


ビキ、ビキビキビキッ!


血管が浮き上がる。


視界が真っ赤になる。


理性が吹き飛んでいく。


「…グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアア!!!!!」


咆哮。まるで野獣。


人とは思えない圧迫感を撒き散らす。


ビリビリビリッ…!


それは、部屋全体を蹂躙し、鳴動する。


ピキ、ピキ、バキィンッ!


シャンデリアがひび割れ落ちる。


恐慌に見舞われ、幾人かの兵士が慌てふためき右往左往する。


「…ハッ」


そんな中、蒼琉は一人楽しげに嗤った。


「なかなか面白ぇ」


唇の端を吊り上げる。


「グォォォォオァァァ!!」


再度吼える目の前の男を見やり、この状況をどう楽しもうか模索する。


「…おい、テメェら!」


戦意を喪失し始めていた周囲の兵士達を一喝すると、顎をしゃくる。


「アレを始末したら、好きなものをくれてやる!根性見せてみろッ!」


その言葉に、恐怖に見舞われた兵士達が立ち上がる。


『うおおおおぉぉぉっっっ!!!』


自らを激励するためか、はたまた蒼琉の言葉に反応したのか、兵士達が怒号を上げる。


ガチャガチャガチャガチャッッッ!


一斉に銃口を野獣へと向けた。




―――ま、コイツらじゃあアレは止められねぇだろーな…。




「後は任せたぜ」


くるりとその場に背を向ける。


スタスタスタ。


更に上階へと向かう階段に脚を向けた。


「ガァァァッ!」


それを逃すまいと吼え、脚を踏み出す。


バキュゥゥゥンッ!


その脚元で火花が爆ぜる。


タタタタタ…。


周囲に展開していた兵士達が、通さないと言わんばかりに眼前へと集結する。


「グォォォォオ!」


一つ吼えると、目標を兵士達へと切り替えた。



ズシャッ、ズシャッ…。


重々しく、禍々しい足音を響かせながら兵士達に歩み寄る。


『……!』


気圧されたのか、全員が僅かずつ後退していく。


「う、うおおおおっ!!」


その中で一人の兵士が、意を決し突撃する。


ドタタタタタタタッ!


真正面からのアサルトライフルによる掃射。距離も大して離れていなかった為、必中は目に見えていた。


しかし。


ガキキキキギィンッ!!


その音にその場に居た全員が耳を疑った。


確かに全弾命中していた。一発も外していない。


だが目の前の男は怯む事無く向かってくる。


「ひ!?ど、どうなっ…」


突撃した兵士は、最後まで言葉を発する事は出来なかった。


バグンッッッ!!


振り抜いた拳が、顔面を襲い掛かる。



ブシュゥゥゥゥッ!!


直後、鮮血が噴出し、一瞬頭が消えたのかと見間違える。



否。



その拳で千切れ飛んでいた為である。


グシャッ!


獣はその頭部を踏み潰すと、興味を失くしたとでもいう様に残りの兵士達へと頭を巡らす。


『ヒッ…』


『あ、あああ…』


殆どの兵士が恐慌をきたしている中、一人の兵士が臆する事無く銃口を向けている。


「臆するなッ!」


兵士の隊長格が一喝する。


「ヤツは何らかの防弾装備を備えているに違いないッ!露出した部分を狙え!」


…ガチャ、ガチャッ。


いまだ震えで狙いの定まらない兵士達が、一人、また一人と目の前にいる獣に狙いをつける。


「ハァァァァ…」


恐ろしさに拍車をかける呼気を発し、一歩踏み出す。


「………」


隊長が距離を測る。



…ズシャッ、ズシャッ…。



ギリギリまで引き付け、


「てぇぇぇっ!!」


ズガガガガガガッ!

ドタタタタタタッ!

ドンッドンッドンッ!


目の前の目標に向け、一斉射撃を開始。




…無数の弾丸が迫る。しかし回避動作にすら移らなかった。


スウウウウ…。


大きく呼吸。


「グォォォォオアアアアアアアッッッ!!!!」


地をも揺るがす咆哮。


『がっ!?』


『ぐ…ぇ』


『ぎひぉ!?』


前衛に居た兵士達が、奇声を上げ次々と倒れていく。


肝心の弾丸はというと、全て床へと転がっていた。

無残にひしゃげた姿で。



「く…ッ!」


フルフェイスヘルムの上から耳を押さえながら隊長と残った兵士達が後退する。


「何をしている!撃て!撃てぇぇぇッ!」


隊長が一人、後退しながら兵士達を怒鳴りつける。


ガガッ、ズガガガガガガッ!

ドタタタタタタッ!

ドンッドンッ!


臆しながらも、兵士達が射撃を再開する。


だがそれも、徒労に終わる。


ッズダンッッッ!!


一瞬の内に跳躍し、宙へと舞う。


『!?』


姿が消え、上と気付くのが遅れる。


「オオオオァァァァッッッ!!」


ズガンッッッ!!


振り下ろされる踵落とし。その威力は人体を破壊するのに足る物だった。


『ギャァァアッ!?』


肩から右腕を千切られた兵士が悶絶する。


「フゥゥ…。フゥゥ…」


目の前で返り血を浴びながら呼吸をする男に、周りの兵士達が恐れおののく。


「接近戦だ!刀を使えぃッ!」


隊長が檄を飛ばす。しかし恐怖の為か、一瞬反応が遅れる。


「ガァァァァッ!!」


『ヒィッ!?』


手近な兵士の頭を鷲掴みにすると、そのまま力任せに振り回すッ!


ブゥオンッッッッ!!


ゴキッバキッ!


重い風切り音と共に、鈍く骨の折れる音が聞こえる。


「アアアアアアアッッッッ!!」


ズガゥンッッ!


周囲の兵士が後退するのを見ると、首の骨が折れぐったりしている兵士を床に叩きつける。


「グゥゥゥゥゥ…ハァァァ…」


再び息を吐く。ともすると息を切らしているようにも見える。


足元には既に首を折り絶命した兵士と、右腕を失いのた打ち回る兵士。


しかし、いまだ周囲には多数の兵士達が取り囲んでいた。おのおの手に刀を携えている。


「何をしている!かかれっ!」


隊長格の男が号令をかけると、最早破れかぶれか、兵士達が一斉に斬りかかるッ!


『うおおおおぉぉぉっっっ!!』


全範囲よりの斬撃。


ある者は振り下ろし、ある者は突き、ある者は飛び上がり大上段から斬りかかるッ!




ドドドッドスッ!

ブシュウッ!



一瞬、兵士達の表情に驚きの色が浮かぶ。


幾つも放たれたその斬撃は、男の躰をことごとく穿っていた。先程まで銃弾が全く通用しなかったにも関わらず、である。


「グ、ウゥゥゥ…」


流石に急所は外されていたが、体中刀傷に見舞われ呻きだす。



…ニヤリ。



冷や汗を浮かべながらも、勝機とばかりに隊長が笑う。


「今だ!そのまま…」


斬り刻め、と言おうとした。


それは掻き消された。再び発した咆哮に。


「!!!!!!!!!!!!!!!!」


音の無い咆哮。そう表現するべきだろうか。


その衝撃波により、その場に居た全員が仰け反る。


「ァァァァアッッ!!」


仰け反った為に兵士達の手から刀が離れる。対象の躰に突き刺さったまま。


ドゴンッッ!


『…っぇ!?』


次の瞬間には、アーマーごと左の拳が一人の兵士を貫く。


パシッ。ブシュッ!


血液が噴き出すのも構わず自分の躰に刺さったままの刀を引き抜く。


ビュンッ!


一閃。


ズガガガシュッ!!


それは無数の斬撃となり兵士を覆う。




…ドチャチャッ!




一瞬で肉塊へと変貌する。


ガシャッ。


その場に刀を放り出す。


それが合図。


「グゥォォォアアア!!!」


ズガガガガドゴンッ!ゴキバキッブシュウッ!!!


手当たり次第に殴り、蹴り、へし折り、叩き斬り貫き通し擦り潰し吹き飛ばし滅する。


『ごふぁ!?』

『ぐうっ!?』

『ギャァァアッ!?』


それは相手が絶命するまで続いた。


その光景は、さながら狂戦士が闘い狂う様に見えた。



…ドシャ。


最後の兵士が血の海に沈む。


ドガッッッ!


『ゴバッッ!?』


右腕を落とされた兵士の胸を踏み潰す。


血飛沫が舞い、やがてそれも止まる。


「フハァァァ…」


自ら流した血液と、返り血の中振り向く。


ガシャッ!


振り向いた視線のその先。隊長が筒状の物を構えていた。


「しっ、死ね化け物ッッッ!」


ガチッ!


引き金を引く。瞬時に推進剤が作用する。


バシュウゥゥッ!


放たれた弾頭。小型ミサイルだ。


隊長が手にしていたのは地対空ミサイルランチャーだった。

戦場で歩兵が戦闘ヘリを攻撃する際に使われる兵器である。


シュゥゥゥッ!!


燃料が燃焼する独特の音を発しながら、真っ直ぐに目標目掛け飛来する!


「!!!!!」


そのスピードに反応しきれず、咄嗟に両腕を交差し防御の姿勢をとった。



着弾。



ドゴォンッッッ!!


「うおっ…!」


火焔と爆風が巻き起こり、攻撃した隊長にも爆風が襲う。



ゴゴゴゴゴン…ゴゴン…。



広いとはいえ室内。壁には亀裂だけではなく、多々崩壊した部分も見られた。


やがて煙が収まり、視界が晴れる。


着弾周囲、直径数メートルは跡形も無くなっていた。


「ハ…ハハハハッ!」


勝利の為か、自然と笑いが込み上げる。


「ハハハハッ!やったぞ!ウハハハハッ!」


ランチャーを放り出し高らかに大声で笑い続ける。



…ガラ、ガラガラ



高揚か、それとも自らの笑い声か。


周囲の崩壊に紛れた音は、隊長の耳に届いていなかった。



…ビシ、ビシビシビシ



「ざまあみろ化け物め!ハハハハッ!」


隊長が狂喜する。その後方。




…ビシ、バガッッ




「ハハハ…ハァッ!?」


振り返った目に映ったのは、巨大なコンクリート片。いや、十メートル程の塊といった方が良いだろうか。


それを片手で持ち上げる人影。跡形も無くなった筈の男。


「ま、待て!は…」


「グォォォォォオ……」


コンクリート塊を掴む右手を引き絞り、



「…オオオオオァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」



ブン投げるッッッッッッ!!!!!!!



グゥオンッッッッ!!!!


「おわあああああああああ!!!!!」


轟音と共に迫る巨塊に悲鳴を上げる。


ズガァァァァァンッッッッッッ!!!!


それはあっさりと掻き消され、押し潰された。



パラ、パラパラ…。


破砕された周囲の壁とコンクリートが崩れていく音を立てる。


ザ…、ザ…。


舞い上がる埃の中、狂戦士が歩みを進める。




さしもの彼も、ミサイルの直撃を受けていては無事では済まなかっただろう。


インパクトの直前、彼は防御体勢をとりながらもギリギリの所で回避動作に移っていた。


後方に跳んでいては、爆風で谷底へ転落する。瞬時にそう判断し、真横に跳んだ。


結果、爆風により吹き飛ばされ火焔に包まれる事も無く、また破砕したミサイルの破片に躰を切り刻まれる事も無かった。…ただ、壁に激突は避けられなかったが。


手にしていた巨塊は自身が壁に叩き付けられた際、その衝撃で浮いた壁そのものだった。それをそのまま投げつけたのである。




ザ…。ガシャンッ。


床に突き立てたままの大剣を引き抜き、背に負う。


不思議な事に、あれだけの戦闘があったにも関わらず傷一つ付いていなかった。


ザ、ザ、ザ、ザ…。


蒼琉が消えた階段へと向かう。その脚取りは重く、ダメージが相当蓄積されている事が窺えた。


ポタ、ポタ、ポタ。


一歩毎に血液が滴り落ちる。


ガッ。


階段に脚を掛けた。


「フゥゥゥ…」


一つ息を吐くと、上階を見上げる。


暗闇の先、ごく僅かな光が漏れているのが遠くに見えた。


トンッッ。


瞬時に飛び上がるかの様に階段を駆け上がった。普通ならば数十秒かけて登る段数を、数秒で登り切る。



…ザザッ!


最上段まで登り終えると、光の元を確認する。


そこには古ぼけた鉄扉。光はそこから漏れていた。


…血塗れの手で乱暴にノブを回す。


ガチャッ。


それはすんなりと口を開け、先を促す様にと開ききった。


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