Sacrifice
敵兵によってライフル弾が発射される直前に、南条は走り出していた。
スタタタタンッ!
その脚は、人間の反応速度を優に超えていた。
―――対面か…。突き飛ばすのが精一杯だな…。
自分でもやけに冷静な思考だな、と思う。
その間にも飛来する弾丸。
南条にはその軌道も、動きも見えていた。常人には捉えられる筈がない動き。
だが、南条には見えていた。
弾丸の速度と、自分の脚の速力を計算し心の中で頷く。
―――全く、心配を掛けさせる…。
少なくとも敷島は助けられる事に安堵していた。
それは裏を返せば、自分に危険が及ぶ事を示唆していた。
「…!?」
銃声と、自分に向かって来る南条に、二重に驚く敷島。僅かに動きが乱れる。
―――…ッ!
思ったよりも敷島の反応が早かった事に一瞬焦る。だが最早考える時間も無かった。
「退がれぇぇぇッ!」
思わず叫ぶ。
弾丸が迫る。まだ僅かに南条が早かった。
―――手荒だが…。許せッ!
「ハァァァッ!」
「ッ!?」
ドガッッ!
突き飛ばす。面食らった様子で敷島が弾き飛ばされ仰向けに転がる。
…直後、衝撃が自らを貫いた。
―――その瞬間、全ての音が消えた様な気がした。
ゆっくりと、スローモーションの様に、南条の身体が投げ出される。
突き飛ばされた敷島は成す術も無くそれを見送るしかなかった。
ガッシャァァァンッッ!!
一面に張られたガラスが、南条の身体が叩きつけられた衝撃で一瞬に砕け散る。
だが、ライフル弾の衝撃はそれだけでは済まなかった。
その華奢な身体は、舞い散る木の葉の様に中空へと躍り出る。
「レイィィィィィィッッッ!!!」
敷島の背後から、須藤が大声で叫ぶ。
へたり込む敷島の脇を抜け、その木の葉を掴み取ろうと手を伸ばす。
―――だが、その手が届く事は無かった。
須藤の手は虚しく空を切る。
無情な重力は、一人の英雄を死の国へと引きずり込む。
「!!!」
ヒュゥゥゥ………ドパァァァンッッ…。
南条は抗う事無く、濁流渦巻く谷底へとその姿を消した。
「…くっ…!」
須藤が谷底を歯噛みしながら覗き込む。
「あーあ。無理するからそうなるんだ」
背後から男の声。振り向くと、今まで見せた事の無い形相で睨み付けた。
「…ハン。その大剣…。アンタが須藤か」
蒼い鎧を着た男が薄ら嗤いを浮かべる。
「あんたは、何だ」
身体中から怒りを発散し問う。
「オレか?…北海道連合頭目、伊達 蒼琉。お前らが目の敵にしてたモンだ」
よろしくな、と手を振る。
―――コイツが、大将。
須藤は怒りの対象を目に焼き付けた。
―――コイツだけはユルセナイ…ッ!
飛び掛かろうとして踏みとどまる。
怒りで我を喪いそうになる中、敷島の事を思い出す。
…横目で敷島を見る。
いまだ放心状態にあるのか、床にへたり込んだままだ。
「………」
敵兵が銃口を向けていたが、構わず敷島に近寄る。
「ユーコ…」
声を掛けた。返事は無い。
ガシッ。
肩を掴み、軽く揺すりながら声を掛ける。
「ユーコッ」
「………」
ぼんやりとだが、目の焦点がこちらに合う。
「…ねぇちゃん、は?」
迷った。
怒りと動揺と困惑で言い澱む。
「…よく、聞いてくれ」




